精巣(睾丸)は男性の体のなかでも、とてもデリケートな部分ですよね。何か異常を感じても、周囲の人に気軽に相談できないと思ってしまいがち。しかし、例えば精巣に「しこり」が見られる場合、もしかすると悪性の腫瘍の可能性もあり、早期に発見・治療する必要があります。また、そのほかの病気でも、長く放置してしまうと不妊の原因にもなりうるので、注意が必要です。
今回は、精巣(睾丸)にしこりがある場合に考えられる病気について、原因や症状、治療法をまとめました。
精巣(睾丸)にしこりが生じる病気は?原因は?
正常な精巣は、楕円形をしており、長い方の直径が4cmほどとされています(※1)。手でさわったときにしこりのようなものがある場合、次のような病気の可能性が疑われます。少しでも精巣に違和感を覚えるようであれば、泌尿器科を受診してくださいね。
精巣上体炎(副睾丸炎)
精巣をさわったとき、しこりがあるだけでなく、激しい痛みと腫れ、発熱が見られる場合、「精巣上体炎」の可能性があります。これは、精子を一時的に貯蔵する「精巣上体」が炎症を起こす病気で、尿道を経由して体内に入った細菌が精巣上体まで逆流し、繁殖することによって引き起こされます。
クラミジアなど、尿道に感染する性病が原因で精巣上体炎を発症することも多いので、性病検査を受けて感染予防に努めることも重要です。
細菌感染が原因で起きる病気なので、抗生剤を服用するにより炎症を治癒することができますが、精巣にしこりが残るケースもあります。
残ったしこりが、精子の通り道である「精管」を両側ともふさいでしまうと、無精子症の原因となるので早急に対応をすることが重要です(※1)。
精液瘤(精液嚢胞)
「精液瘤(せいえきりゅう)」は、精巣上体もしくは精管に精子を含んだ液がたまり、「こぶ」ができる状態です。
小さい精液瘤は、上でご紹介した精巣上体炎と似ていて、大きい場合は、精巣を包む膜にリンパ液が溜まる「陰嚢水腫」と区別がつきづらいとされますが、超音波検査によって診断が下されるのが一般的です。
精索静脈瘤
左右の陰嚢の大きさに明らかな差があり、大きい方が入った陰嚢の皮膚表面をさわったときに「でこぼこ」がある場合、「精索静脈瘤」の疑いがあります。
これは、血液が精巣から心臓へと戻るときに、精索静脈についている逆流防止弁がうまく働かず、精巣に向かって血液が逆流してしまうことによって、精巣につながっている「蔓状静脈叢(つるじょうじょうみゃくそう)」がふくらみ、こぶができた状態をいいます。
一般的に、男性全体の10~20%に精索静脈瘤が発生するといわれており、解剖学的に左側の精巣に起こりやすいことがわかっています(※2)。痛みや腫れなど自覚症状に乏しく、日常生活にもほとんど支障をきたしませんが、男性不妊症の原因となる可能性があるので注意が必要です。
精巣腫瘍(精巣がん)
「精巣腫瘍」は、精巣にできる悪性の腫瘍(がん)です。がんのなかでは比較的まれですが、20~30歳代の男性に最も多く見られるがんなので、これから妊娠を望んでいる若いカップルは特に気になる病気かもしれません。
発生初期には精巣内にしこりを感じるものの、目立った痛みや腫れがないため放置してしまうことも多いようです。しかし精巣腫瘍は他の部位に転移しやすいので、すぐに泌尿器科を受診することが重要です。
生まれたときに精巣が陰嚢内に下りていない「停留精巣」の状態だった人は、そうでない人に比べて2~9倍、精巣腫瘍が発生しやすいといわれており(※3)、食生活などの影響も考えられていますが、明確な原因は突き止められていません。
手術療法では、精巣から精索までを摘出する手術が一般的ですが、転移がある場合は、抗がん剤や放射線治療の追加治療が必要になります。
精巣にしこりができる病気は、不妊につながるの?
いままでご紹介した、精巣にしこりがある場合に考えられる4つの病気のうち、「精液瘤」は生殖機能を脅かすものではないものの、他の3つは男性不妊症の要因になりうるリスクが潜んでいるので、油断は禁物です。
精巣上体炎による不妊リスク
先述のとおり、「精巣上体炎」によって両側の精管が閉塞してしまうと、精液中にまったく精子が見られない「無精子症」を招きます。精巣のしこりのほかに激痛、腫れ、発熱もある場合は、ただちに泌尿器科を受診してください。
精索静脈瘤による不妊リスク
「精索静脈瘤」は、精巣の機能に障害が生じている状態であり、男性不妊外来を受診する人の約30~40%で見つかるといわれています。しかし、鼠径部を切開し、精巣静脈を結んで血液の逆流を防ぐ手術を行うことで、患者のうち約60%で精液検査の結果が改善したというデータもあります(※2)。
精巣腫瘍による不妊リスク
「精巣腫瘍」にかかると、基本的には精巣摘出手術をすることになります。転移が見られなければ通院による経過観察をすることになりますが、残っている精巣に生殖能力があれば、将来的に自然妊娠することも可能です。
がんが転移している場合には、抗がん剤などの化学療法や放射線治療を行うことになるので、治療前に精子の凍結保存をしておくことで、人工授精によって子供を授かれるケースもあります。
このように、精巣にしこりが生じる病気を発症しても、将来パートナーとのあいだに子供を作れる道はあります。しかしながら、できるだけ早い処置・治療をしなければ不妊リスクが高まることは確かなので、手でさわってみて精巣に違和感があるときには、すぐに泌尿器科を受診しましょう。
精巣にしこりを感じたら、すぐに泌尿器科へ
何となく精巣にしこりがあると感じても、日常生活を送れなくなるほどの痛みや腫れがないと、そのままやり過ごしてしまう人も多いものです。もしくは、そもそも精巣に異常がないかどうか手でさわって確かめる習慣がない男性がほとんどではないでしょうか。
しかし今回ご紹介したとおり、精巣にできたしこりは、男性不妊症にもつながる病気のサインである可能性もあります。普段から注意してセルフチェックをしてみてください。
男性自身の健康だけでなく、将来子供がほしいと考えているパートナーとの幸せを守るためにも大切です。少しでも精巣に違和感を覚えたら、できるだけ早く泌尿器科で診察を受けてみましょう。