月経前緊張症とは?原因や症状、治療法は?漢方は効く?

監修医師 産婦人科医 城 伶史
城 伶史 日本産婦人科専門医。2008年東北大学医学部卒。初期臨床研修を終了後は、東北地方の中核病院で産婦人科専門研修を積み、専門医の取得後は大学病院で婦人科腫瘍部門での臨床試験に参加した経験もあります。現在は... 監修記事一覧へ

「生理前になると身体的・精神的に不快な症状が出る」という女性が7~8割ほどいるといわれています(※1)。イライラしたり、憂うつになったりして、日常生活に支障をきたすほどに症状がひどい場合は「月経前緊張症(PMT)」かもしれませんよ。今回は月経前緊張症の原因や症状、治療法などをご説明します。

月経前緊張症とは?

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「月経前緊張症(Premenstrual Tension:PMT)」とは、月経(生理)の3~10日前くらいから起こる不快症状の総称です。

主に精神的な不調を指しますが、最近では身体的な不調とあわせて「月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)」と呼ばれることが多くなっています。精神科などでは、月経前の重症な精神症状を「月経前不快気分障害(PMDD)」と呼ぶこともあります。

日常生活に支障をきたすほどつらい症状も、生理が始まった途端に治まるのが特徴です。

月経前緊張症の主な症状は?

イメージ 注意 雷雨 空 不安 曇り

症状の現れ方や強さには個人差がありますが、次に挙げる症状が当てはまる場合、月経前緊張症の可能性があります(※1,2)。

● イライラする
● 怒りやすくなる
● 興奮しやすくなる
● 気分がふさぎこむ・憂うつになる
● 疲れやすくなる・だるくなる
● 不安や無力感を覚える
● 食欲が異様に増す
● 眠りすぎる/眠れなくなる

「興奮しやすい」のと「憂うつになる」のとでは異なる症状のようにも見えますが、どちらも精神的に不安定になっている点では同じです。

また、頭痛や腹痛、便秘や下痢、むくみなどの身体的な不快症状を伴うこともあります。

月経前緊張症の原因は?

月経前緊張症の原因は、まだはっきりとわかっていませんが、次のような可能性が考えられています。

プロゲステロン(黄体ホルモン)の過剰分泌

基礎体温表 グラフ 女性ホルモン エストロゲン プロゲステロン

上のグラフのとおり、排卵後、黄体期に入ると「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の分泌量が増えます。プロゲステロンは、妊娠や出産に不可欠なホルモンである一方、過剰に分泌されると感情が不安定になると考えられています。

しかし、人によっては黄体期後半に月経緊張症の症状が見られることから、プロゲステロンの増加がどこまで影響しているかは明らかになっていません(※2)。

セロトニンの減少

排卵後にピークを迎えたプロゲステロンが、月経が近づくにつれて減っていくと、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」の分泌量も減ります。

セロトニンは、他の神経伝達物質をコントロールし、精神を安定させる働きを持っています。そのため、セロトニンが少なくなると、疲れやすくなったり、気持ちがふさぎこんだりと、精神的な症状が現れると考えられています(※2)。

ビタミンB6の不足

上で説明したセロトニンを体内で作り出すためには、ビタミンB6が必要です。そのため、ビタミンB6が不足すると、月経前緊張症の原因になるといわれています(※2)。

ビタミンB6は、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の代謝に働きかけることで、ホルモンバランスが整うため、それも月経前緊張症の緩和につながるのではないか、とも考えられています(※3)。

月経前緊張法の治療法は?漢方は効く?

漢方 診察

原因が解明されていないので、月経前緊張症の特効薬はまだありません。しかし、月経が来たあとは症状が治まることから、対症療法を行うのが一般的です(※4)。

症状の記録

いつ、どんな症状が出たかを毎日記録するように、医師から指示されることがあります。病院独自の用紙のほか、スケジュール帳や生理管理アプリなどを利用しましょう。

症状を記録し続けることで、自分の生理周期と不調が訪れるリズムが何となくつかめるようになるので、「今は憂うつになりやすい時期だから、あまり考えすぎないようにしよう」というように、冷静に対処できる可能性があります。

精神療法

わけもなく憂うつになる、といった精神的な症状に対して、カウンセリングなどの精神療法が効果を発揮することもあります。

薬物療法

低用量経口避妊薬(ピル)を服用して排卵を止めることで、月経前緊張症の症状がなくなることが多くあります。

精神的な不調に対して、抗不安剤や精神安定剤、ビタミン剤を使うこともあります。また、下腹部痛や腰痛があれば鎮痛剤、むくみには利尿剤など、身体的な症状も薬の力で緩和できることがあります。

漢方

東洋医学では、月経前緊張症は「気」や「血(けつ)」の流れが滞っている状態と考えます。

そのため、精神的な症状に対しては気の流れを良くする「加味逍遥散(かみしょうようさん)」、頭痛や肩こりなどには血の流れを整える「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」など、症状にあわせた漢方を処方されることもあります。

月経前緊張症は予防できる?

呼吸 リラックス

月経前緊張症の原因は完全に解明されていませんが、前述のとおりビタミンB6・セロトニンの不足が一因と考えられています。

そこで、ここでは月経前緊張症の予防法として、ビタミンB6・セロトニンを補い、活性させる方法をいくつかご紹介します(※5)。

栄養バランスの取れた食事

セロトニンの生成を助けるビタミンB6は、レバーやカツオ、マグロなどに豊富に含まれているので、意識して摂るのがおすすめです。

ただし、セロトニンの活性化を促すためには、炭水化物や、大豆・乳製品に含まれるトリプトファンもバランス良く取り入れることが大切です。

生理前は食欲が増す人も多いと思いますが、よく噛んで適量を食べるようにしましょう。また、セロトニンサプリを賢く摂るのも一つの方法です。

適度なリズム運動

規則的に筋肉を緊張させたり緩めたりを繰り返す「リズム運動」には、セロトニンを活性化させる効果があります。

激しい運動を疲れるまで行うのではなく、ウォーキングやヨガといった軽めの運動を週2~3日、定期的に行うのがおすすめです。体を動かすことで、イライラや憂うつな気分が解消されるかもしれません。

日光浴

1日に5~30分程度、日光を浴びるようにしましょう。まずは、朝起きたらすぐにカーテンを開け、部屋に光を入れることから始めてみてください。

上で挙げたリズム運動と組み合わせて、休日は日光を浴びながらウォーキングや散歩をすると、さらに効果が高まります。

スキンシップ

生理が近づくとイライラして、恋人や家族に強く当たってしまう…という人もいるかもしれません。しかし、そんなときこそ、手をつないだり、肩もみをしたりといったスキンシップを取ってみましょう。

スキンシップだけでなく、親しい人との会話などをすることで、オキシトシンが活性化し、その結果セロトニンも分泌されます。ぜひ試してみてください。

月経前緊張症の対策は日常生活の見直しから

カレンダー

生理のたびに月経前緊張症に悩まされているという人は、まず婦人科を受診してみましょう。薬や漢方によって、つらい症状が改善されるかもしれません。

また、同じ症状を繰り返さないためには、食生活や運動習慣などを見直して、次の生理が来る前に備えることも大切です。血行が悪くなると症状が悪化することもあるので、普段から冷え対策も心がけてくださいね。

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