小学校に入学したら、いよいよ“勉強”が始まります。
親としては「小学校入学までに何を身につけておくべきか」「子供が勉強嫌いにならないか」など心配ですよね。
そこで今回、インスタグラムで「勉強が好きになる子育て術」が大人気の元教師「アキ」さんに、おうち学習のコツをうかがってきました。
勉強のために必要な勉強以前のこと
小学校入学までに必要なのはたった2つ
ーー小学校入学までに子供に身につけさせるべきことはありますか?
アキさん:学習面で小学校入学までにやっておくべきことは2つあります。
1つめは、自分の名前を読める・書けるようにしておくこと。
2つめは、1から10までの数字と量が理解できるようにしておくことです。これは例えば、「1」という数字を見せられた時にリンゴ1個と結びつけて考えられるということです。
ーー意外と少ないですね。その2つが重要な理由はなんでしょうか?
アキさん:自分の名前の読み書きは、小学校に入学してすぐ必要になるんです。
自分の持ち物やロッカーの場所などを名前で見分けなければならないし、自分の名前もすぐ書かされます。そのため、小学校入学時には自分の名前の読み書きをできていなければなりません。
数字と量の理解は、算数のためですね。数の概念や理解がないまっさらの状態だと、いくら授業をやってもなかなか頭に入っていかないんです。
逆に、数字と量の理解ができていると、「それわかる!」となって授業が楽しくなり、もっと勉強したいという気持ちにつながっていきます。
入学後の成長に必要な「授業に臨む姿勢」
ーーもっとたくさん身につけておくべきことがあると思っていたので、2つしかないと聞いてホッとしました。
アキさん:学習面では2つしかありません。ただ、これはあくまで「学習面」での話で、実はこれ以上に大切なことがあるんです。
それは「椅子に座っていられる」「人の話を静かに聞ける」「困った時に人に助けを求められる」です。
要するに「授業に臨む姿勢」を身につけておくことがとても重要になります。
子供はやる気次第ですごく伸びます。たとえひらがなを書けなくても、算数ができなくても、やる気があれば子供はある日いきなりグンと伸びるんです。
ですが、授業に臨む姿勢という根本が身についていないと、たとえやる気があっても厳しいと思います。
ーー授業に臨む姿勢は小学校では教えてくれないのでしょうか?
アキさん:もちろん教えてくれますよ。先生から「座りましょう」や「お話を聞くときは背筋ピーンですよ」といった声かけをしたりはします。
でも、一度に何人も児童を見なければならないので限度があります。
少しずつでいいので、入学までに家庭で授業に臨む姿勢を身につけていくべきですね。
10分間座り続けるのを目指してみよう!
ーーどうすれば授業に臨む姿勢が身につきますか?
アキさん:あまり難しく考える必要はありません。子供を座らせて、一緒に塗り絵をしたり、テレビを観たり、そういうのでいいんです。
最初は3分程度でかまいません。とにかく毎日椅子に座る機会をつくるのがいいと思います。
ーーどのくらいの時間、座り続けられるとよいですか?
アキさん:10分くらい座り続けられると良いですね。
というのも、授業で求められるのがそれくらいの長さだからです。
小学校の授業は45分間あって、最初の10〜15分は先生の説明を聞く時間で、その次の10〜15分が体を動かす時間、そして最後の10〜15分で授業のまとめ的な話を聞く時間となっています。
だから10分くらい座り続けられる集中力はあったほうがいいですね。
勉強好きになってもらうために勉強させない
強制された先取り学習は不幸を招く
ーー未就学児向けの通信教育などを見てみると、小学校に入る前からひらがなどころかカタカナや足し算引き算の学習が当たり前のように行われていますが、そういった先取り学習は不要ということですか?
アキさん:先取り学習を否定はしません。お子さんが興味を持っているのであれば、どんどん先取りしてよいと思います。
何の教材でもそうなのですが、与えてみるというのはとてもいいことです。そもそも与えてみなければ子供が興味を持っているかどうかもわかりませんから。
ですが「やらなくちゃ」と親のほうが焦ってしまい、無理に足し算・引き算をやらせたり、時計の読み方を学習させたりするのは反対です。
そういった学習をさせられた子供は「勉強が嫌い」という状態で小学校に入学しがちで、悲しい結果を生むことになります。
ーーアキさんご自身も先取り学習はさせなかったのでしょうか?
アキさん:私の娘と息子は今小2と小4なのですが、小学校に入る前はひらがなを書けませんでした。お友だちから手紙をもらっても読む専門でしたよ。
もちろん読み聞かせやしりとりなどを通して文字に親しむことには力を入れていましたが、本人がやりたがらないので無理にひらがなを覚えさせたり、手紙の返事を書かせたりといったことはさせませんでした。
そのおかげか、私の子供は「勉強が嫌い」とは言いませんね。何も声かけしなくても自分から勉強しますし、時間割を確認して自分で準備もしますよ。
もしあのとき無理やりやらせていたら、きっと本人たちは「書きたくないのに書かされている」という気持ちになっていたと思います。
小学校に入学するタイミングで勉強が楽しくなくなっていることのほうが危険なので、無理な先取り学習は禁物です。
親が求められる家庭学習での役割
子供のやる気を損なう禁句ワード
ーーお話を聞いていて、いつ勉強が好きになってもいいように無理強いはしない、というのが勉強を好きになってもらうコツかなと思いました。
アキさん:そうだと思います。あとは「早くやりなさい」「なんでできないの」「前にも教えたよね」「何度言ったらわかるの」などの禁句ワードを使わないことですね。
親としては言いやすいし期待や不安もあるので、つい言ってしまいがちなフレーズだと思います。ですが、口に出す前にいったん立ち止まって、「自分が言われたらどう思うか?」という視点で考えてみてください。
親だって人間ですから、感情的になってつい口に出てしまうこともあると思います。私も言ってしまう時はあります。
しかし、このことを意識するようになってから、うちの子が癇癪を起こしたり、言うことを聞かなかったりすることは本当に減りましたよ。
ーーどうしても言いたくなった時はどうすればいいでしょうか?
アキさん:言い換えましょう。子供だけじゃなく大人も同じだと思うんですが、否定系や命令形の言い回しはやめたほうがいいですね。
私の場合、実際にやってほしい言葉を短く言うようにしています。たとえば「宿題を早くやりなさい」と言いたい時は「宿題、いつやるの?」と聞いてみて、本人にやるタイミングを選択してもらう。
強制をするのではなく、親はあくまでサポーターやタイムキーパー役に徹して、子供に決定権を委ねる。これだけで、だいぶ親子間のストレスは減らせると思います。
勉強が好きになる環境づくり
勉強好きになるチャンスの増やし方
ーー勉強が好きになりやすい環境というのはありますか?
アキさん:勉強したくなった時にすぐ勉強できるように、手が届く範囲内に絵本があったり、図鑑があったりするといいですね。
机に向かって勉強するのも一つの手ではあるのですが、そうではなくて身近に興味が持てるようなアイテムを置いておくのが重要かなと思います。
うちの娘は読み聞かせは好きなんですが、自分で読むのは好きじゃなかったんです。でも、私の好きな本や絵本などをリビングに置いておいたら、ある日突然「おもしろい」って読み出したんですよ。
「手の届くところにある」ってことだけで、勉強が好きになるチャンスは増えると思います。
低学年のうちは1人で勉強できない
ーー小学校入学と同時に子供用の勉強机を買ってあげる人もいると思うのですが、それについてはどうお考えですか?
アキさん:低学年のうちは1人で宿題や家庭学習をする力がそもそもないので、自分用の勉強机を利用する機会はあまりないと思います。
とはいえ、自分専用の机があることでテンションが上がって勉強する意欲が増すということも考えられます。
どうしても勉強机を買ってあげたいのであれば、リビングに置いたほうがいいでしょうね。そのほうが親がすぐにサポートしてあげられますから。
ーー話をお聞きして、子供が勉強したいと思ったときにすぐ応えてあげられるように準備しておくことが親の役目なのかなと思いました。
アキさん:教育系の情報をキャッチしようとしている人は、それだけお子さんのことを考えているし、お子さんのために頑張っている人だと思います。
でもその思いがこじれてしまうと、無理な先取り学習をさせたり、禁句ワードを使って接したりすることにつながる。
私自身、子供が乳幼児のときは「やらなくちゃ、頑張らなくちゃ」という意識が強くて、禁句ワードを使ってしまうことがよくありました。
でも、肩の力を抜いて子供も1人の人間なんだと考えられるようになってから、だいぶ楽になりましたね。
だからこそ、子供のために一生懸命な人には、まずは子供のために頑張ってる自分を褒めてあげてと伝えたいです。
そうすることで、小学校に入ってから勉強で悩むことが少なくなる気がしています。
取材を終えて
小学校入学後に勉強でのつまづきを減らしたい一心で、子供に先取り学習をさせる人は一定数いると思います。もちろん私もその1人。
ですが、それが無理強いになっていないか、今回の取材はそれを改めて考えるいい機会になりました。