風邪をひくと、「免疫力が落ちていたから」とよく言いますが、そもそも免疫力とはどんなものでしょう?子どもの免疫力を高めるために、親にできることは?
病気と深く関係する免疫の働きと、免疫力を上げるための生活の工夫を小児科医の谷内昇一郎先生に伺いました。
谷内昇一郎先生
愛仁会高槻病院 小児科部長。医学博士。小児感染免疫学、小児アレルギーの専門医。著書に『食物アレルギーの考えかた- 除去から摂取へ』(中外医学社)など。講演も多数行う。
免疫とは外敵から体を守る自己防衛システム
免疫とは、私たちの体の中に侵入してきた細菌やウイルスなどの異物を排除して、病気にならないようにする自己防衛システムです。つまり、人間が生まれながらにして持っている、“自分で自分を守る力”のことです。
免疫の機能には、大きく分けて2つあります。
ひとつめは、体内に侵入したウイルスや細菌に打ち勝つこと。たとえば、風邪のウイルスが体内に入った際に、鼻水やのどの痛み、咳、熱が出る、という症状はすべて体内で免疫細胞がウイルスに打ち勝つために働いているから。免疫システムが正常に働いている証拠です。
ふたつめは、“抗体”です。体の中に異物が侵入すると、私たちの体内には、その異物だけに作用する『免疫グロブリン(Ig)』という抗体が作られます。
そうして、一度遭遇した異物を記憶し、二度目以降同じウイルスや細菌がやってきた時には、それに適合した抗体が働き、自らの体を守るのです。免疫グロブリンは、血液中や組織液中に存在し、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE の5種類に分類され、それぞれ異なった働きをします。
血液中に最も多いのがIgGで、妊娠中に胎盤を通して母から子へ継承されます。よく「生後6カ月頃までは、母親の免疫がある」と言われるのはそのためです。
ただ、母親がかかったことのない病気の免疫はもらえないので、すべての病気にかからないというわけではありません。
初乳(出産してから2~3日の間に分泌される母乳)は、IgAと呼ばれる免疫グロブリンを多量に含んでいます。IgAは、細菌やウイルス感染の予防に役立つ抗体です。
母乳には他にもさまざまな免疫が入っており、母乳で育った子は卒乳後も免疫力が強いことがわかっています。
免疫システムは、2~3歳までに整う
生後6ヶ月ごろに母親からもらった免疫が減少すると、赤ちゃんは、ウイルスや細菌に繰り返し感染しながら、今度は自前の免疫力を高めていき、2~3歳までに免疫のシステムが整うと考えられています。
この頃までの心がけがとても大切なのですが、もちろんその後も(大人になっても)生活習慣によって免疫力を高めることは可能です。では、子どもの免疫力を高めるためには、どうすればよいのでしょう。
以下から、免疫力が高まる生活のヒントを紹介します。
腸内環境を整える食事
免疫細胞の多くは、腸に存在します。そのため、腸内環境を整えることが、免疫力を高める大切なポイントです。
腸内環境を整えるには、ヨーグルトや発酵食品、食物繊維が豊富な根菜などの野菜をバランスよく摂り、腸内の善玉菌を増やすことが大切です。
インスタント食品や加工品に含まれる防腐剤等の添加物は、腸内の良い細菌の繁殖をストップさせ、免疫力にダメージを与えることもあるので、控えめにしましょう。
外遊びなどで紫外線を浴びる
外でたっぷり遊んで体を動かすことも大切です。特に寒い時期は、風邪をひかせないようにと赤ちゃんの外出を控える人が多いように思いますが、免疫力を高めるには、軽い風邪を繰り返すこともある程度必要です。
ただし、インフルエンザの流行時には、人混みを避け、マスクで予防するなどの対策をしましょう。
紫外線を浴びることで生成されるビタミンDには、免疫バランスを整える大切な役割があります。夏場の強い紫外線にはケアが必要ですが、秋冬は意識して日に当たるようにしましょう。
泥んこ遊びなどの外遊び
最近では、清潔志向の高まりにより、「菌=悪いもの」という思いから、さまざまな除菌や殺菌グッズがあふれています。
しかし、過度な清潔志向は、かえって免疫力を弱めることになります。赤ちゃんのおもちゃやベビーカーなど、神経質に除菌し過ぎる必要はありません。
世の中には、数えきれないほどのウイルスや細菌が存在します。私たちの体は、それに出合うたびに新しい抗体を作って、病気にならないように戦っています。
ですから、子どものうちにできるだけ多くの外敵に出合うことで、免疫力はどんどん高められます。具体的には、「泥んこ遊び」や「砂遊び」なども最適です。適度に菌と接触できる遊びをすることで、自然と免疫力が高められます。
ママの免疫力低下のサインにも気を付けて
子育てしていると、つい自分のことは後回しになりがちです。「風邪をひいたら長引く」「いつも体がだるい」「肌あれが続いている」などは免疫力低下のサイン。
子どもと一緒に、生活リズムや食事を見直してみましょう。できるだけ休養を取って、自分をいたわる時間を持つことも必要です。毎日の生活を少し工夫して、親子で免疫力アップを目指しましょう。
絵本ナビ編集部
出典:miku No.42 2015年秋号
※掲載されている情報は2016年3月25日当時のものです。一部加筆修正しています。