「水中出産」はあまり知らない人もいると思いますが、フランスやイギリスなどの欧州で普及している出産方法の一つです。日本ではモデルの長谷川潤さんや道端カレンさん、歌手のAIさんなどが水中出産を実践したことが話題になり、注目度は高まっています。今回は、水中出産のメリットやデメリット、費用、日本で実施している医療機関がどれくらいあるのかなどをご説明します。
水中出産とは?自然分娩との違いは?
水中出産とは、その名のとおり、水の中で出産することです。
1人か2人が入れるくらいの小さなプールに、体温と同じくらいの温度(約36~37℃)のぬるま湯をはります。ぬるま湯には、羊水と同程度の塩分濃度になるように自然塩を溶かしてあります。
「水中で赤ちゃんを産む」と聞くと、とても特別なことのように感じるかもしれませんが、出産の方法自体は自然分娩(経腟分娩)とほとんど同じで、産む場所が水中か分娩台の上かの違いだけです。
水中出産のときはずっと水の中にいるの?
水中出産だからといって、ずっと水の中にいるわけではありません。体力の消耗なども考慮すると、水の中に浸かっていられる時間は1~2時間程度なので、赤ちゃんが生まれそうなタイミングを見計らって水に入ることが一般的です。
水の中に入ったあとで陣痛が弱まったら一度外に出て様子を見て、再び陣痛が強くなってきてからまた水に入ることもあります。
また、陣痛に対する和痛効果を目的とした温水浴では、陣痛が始まった初期に水中で過ごすこともあります。
ママだけではなく、パパも一緒に水の中に入って出産することができる産院もあります。
水中出産のメリットは?
水中出産には、以下のようなメリットがあるといわれています。
リラックスできる
体温ほどのあたたかさのぬるま湯に浸かることで、心身ともにリラックスできます。
陣痛や出産の痛みなどに対する不安で体が緊張してしまうと、お産が長引くこともありますが、体を温めてほぐすことで、スムーズな分娩が期待できます(※1)。
また、リラックスした気持ちでお産を迎えると、無理にいきんでしまうことが少なくなるため、母体への負担が軽くなります。
楽に姿勢を変えられる
水中だと浮力があるので体が軽くなり、大きなお腹でも姿勢を変えやすいというメリットもあります。
仰向けで水に浮かんだり、浴槽のへりにつかまって四つん這いになったりと、自分にとって楽な姿勢で出産に臨めるのは嬉しいですね。
痛みが和らぐ
温水に入ると全身の筋肉がゆるむため、陣痛の痛みが和らぎます。
医療に関する国際的な非営利団体のコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)の研究分析によると、水中出産の場合、ほかの分娩方法と比べて麻酔を使用した分娩が少なくなることがわかっています(※2)。
前述のとおり、浮力のおかげで簡単に体勢を変えられるので、痛みも逃しやすくなります。
水中出産のデメリットは?
水中出産はメリットばかりではなく、デメリットもあります。メリットとデメリットの両面を把握したうえで検討してください。
いきみづらい
水の中では浮力が働くため、痛みが緩和される一方、力を込めていきむのが難しくなります。
いきみが弱すぎると赤ちゃんがなかなか出てこられないため、あまりにもお産が長引くようであれば水中から分娩台に上がり、吸引分娩などに切り替える必要があります。
陣痛が弱まることがある
陣痛が来てから早い段階でお湯に浸かると、陣痛が弱くなるケースがあります。お湯に浸かっている時間が長いほど疲れやすくなるのも注意したいポイントです。
出血量が多くなる
ぬるま湯の中にいると血行が促進されるので、出産するときの出血量が多くなる可能性があります。
ただし、コクラン共同計画の研究分析では、産後の出血については水中出産とそうでないケースとの間に有意な差はないとされています(※2)。
赤ちゃんの感染リスクがある
妊婦さんが入る水の衛生管理が徹底されていないと、生まれたときに赤ちゃんが細菌などに感染するリスクがあり、水中出産した新生児にレジオネラ肺炎が発症したとの報告もあります(※3)。
そのため、水中出産をするなら、衛生環境や分娩設備が整った施設かどうかを確認することが大切です。
緊急時の対応が遅くなる
万が一トラブルが発生したとき、すぐに外科処置を行える分娩台の上での出産とは違って、一度水中から外に出なければならないため、対処が遅くなるリスクがあります。
お産では何が起こるかわからないため、妊娠経過が順調でなければ水中出産をできないと医師が判断することもあります。
なお、2016年の米国産婦人科学会の発表によると、「水中分娩は、陣痛開始の早期には陣痛時間の短縮や疼痛の緩和といった利点があるものの、水中での出産が新生児に利点があることを裏付ける科学的な根拠がない」と警鐘を鳴らしています(※4)。
そして、陣痛の最中に水中で過ごすことと、水中で出産することは区別し、出産は陸上で行うことを推奨しています(※4)。
水中出産ができる国内の病院は少ないの?
メリットとデメリットを検討したうえで、水中出産をしたいと思ったとしても、実際に実施できる病院はそれほど多くありません。「日本赤十字社医療センター」(東京都渋谷区)など、水中出産を行っている産院はわずかです。
近年、妊婦さんが主体的にお産に取り組む「アクティブバース」という考え方や、自由な姿勢で出産する「フリースタイル出産」が広まってきているものの、実際に水中出産ができる施設は限られています。
各医療機関が公表している情報や、実際に水中出産をしたことがあるママの口コミなどを参考にしながら、「しっかりと水質管理されている専用のプールがあるか」「医師や助産師はどういう体制でサポートしてくれるのか」など、気になる点は事前に、そして十分に確認しておきましょう。
水中出産をするための条件はあるの?
オーストラリアやイギリスなど、海外では水中出産が推奨される・されない条件や、衛生管理の条件、緊急時の対応などが決められたガイドラインがある国もあります。
たとえば、妊婦さんに熱がある、破水してから時間が経っている、持続的な胎児心拍モニタリングが必要である、といった場合は、水中出産ができません(※5,6)
しかし、日本では水中出産が普及していないということもあり、特にガイドラインはなく、各医療機関や医師の判断によって実施されています。
水中出産の費用はどれくらい?
水中出産は通常の自然分娩に比べて費用が高くなります。産婦人科にプールを設置するのは病院側としてもお金がかかりますし、維持費もかかるためです。
病院によって費用は異なりますが、自然分娩の費用に加えて5〜10万円ほどかかります。水中出産の費用には保険が適用されないため、全額自己負担となります。
また、出産時になんらかのトラブルがあって陣痛促進剤を使ったり、帝王切開を行ったりした場合に費用がさらに増えることや、そのときに保険が適用される場合もあることなどは、自然分娩のときと同じです。
水中出産をする前に情報収集を
水中出産を含め、最近ではいろいろな出産スタイルが選べる時代です。自分らしい出産方法を選びたいと考えている妊婦さんも増えてきています。
そのなかで、どんな出産スタイルを選ぶにしても、妊娠経過が順調で母子ともに健康であることが前提です。
トラブルが起こるリスクが想定される場合、自分が希望する分娩方法を選べないこともありますが、母子ともに無事にお産を終えることが最も大切なことなので、医師のアドバイスを聞きながら、家族とも十分に相談しましょう。
水中出産にはメリットとデメリットの両方があるので、インターネットの情報だけで決めるのは難しいもの。病院によっては、見学説明会を開いているところもあるので、気になる人は参加して詳しい話を聞いてみてください。