「トリコモナス膣炎」という病気をご存知ですか?カンジダやクラミジアと比べると聞き慣れないかもしれませんが、気をつけたい性感染症の一つです。今回はトリコモナス膣炎について、原因や症状、検査・治療法などをご説明します。
トリコモナス膣炎とは?
トリコモナス膣炎とは、トリコモナスという原虫が膣内で増殖して起こる性感染症です。
トリコモナスが女性の膣内に侵入すると、粘膜に寄生して、膣の表面で分泌されるグリコーゲンを吸収します。その結果、膣内のバランスを保っている乳酸菌が減少してしまいます。
通常、乳酸菌によってグリコーゲンが分解され、乳酸に変換されることで、膣内は酸性に保たれています。
しかし、乳酸菌が減ることで酸性が弱まり、トリコモナスやそれ以外の病原体の侵入や増殖を防げなくなることで、炎症が引き起こされると考えられています(※1)。
トリコモナス膣炎は性行為以外でも発症する?
トリコモナス膣炎は、主に性行為を通じて発症する病気です。
ただし、トリコモナスは寄生している人の体外に出ても、水のある場所であればしばらくの間生存できます。
そのため、性行為だけではなく、タオルや下着、不特定多数の人が使うトイレやお風呂場、プール、脱衣所などで感染することもあります(※1)。
トリコモナス膣炎の症状は?
女性の場合、性交渉を通じてトリコモナスに感染すると、3日~1ヶ月の間で発症し、膣内が炎症を起こします。おりものが悪臭を発し、黄色や淡い灰色で、泡だった状態になるのが特徴です。
また、排尿時や性交時に痛みを感じることもあり、尿道や膀胱にも炎症を合併する可能性があります。さらに、膣だけでなく外陰部に炎症が起きると、外陰部の腫れや痛み、かゆみ、ただれなどが現れることもあります。
症状の強さには個人差がありますが、おりものの異常やデリケートゾーンのかゆみを感じたら、そのまま放置せず、早めに婦人科で検査を受けるようにしましょう。ただし、女性が膣トリコモナス症を発症しても、約20〜50%は症状が現れません(※2)。
トリコモナス膣炎の検査方法は?
おりものの臭いや色、膣壁の赤い腫れなどからトリコモナス膣炎の可能性が疑われる場合、おりものを採取してトリコモナスがいるかどうかを顕微鏡で確認・検査します。
また、感染が疑われる女性やそのパートナーの尿検査により、トリコモナスが見つかることもあります(※2)。
トリコモナスは、感染した女性の膣内だけでなく、パートナーの体内にも生息している可能性が高いので、2人とも検査と治療を受けることが大切です。どちらか一方だけ治療をしても、もう一方が感染している状態では再度感染してしまう恐れがあります。
トリコモナス膣炎の治療方法は?
トリコモナス膣炎は、薬物療法が基本です。一般的に、メトロニダゾールやチニダゾールなどトリコモナスの繁殖を抑制する薬が処方されます。
経口薬(飲み薬)による治療が基本ですが、原則として妊娠中の場合は、膣錠を使用します。薬の成分が胎盤を通過して、お腹の赤ちゃんに届いてしまうからです(※2)。妊娠の可能性がある場合は、検査のときに必ず医師に伝えてください。
なお、なかなか治らない場合や再発した場合は、経口薬と膣錠を併用することもあります。
トリコモナス膣炎の薬を使うときの注意点は?
トリコモナス膣炎の治療薬を投与しているときに飲酒すると、腹痛、嘔吐、潮紅(全身の赤み)などの副作用が起こることがあります。
メトロニダゾールやチニダゾールの投与期間中や、投与を終えてから3日間はお酒を控えましょう。
トリコモナス膣炎かも?と思ったらすぐに病院へ
通常、おりものは透明か白っぽい色をしていますが、黄色や淡い灰色で泡立っている、臭いがきついといった異常がある場合、トリコモナス膣炎の可能性があります。
デリケートゾーンのかゆみで気づく人もいるかもしれません。パートナーにうつしてしまう前に、なるべく早く婦人科を受診しましょう。
トリコモナス膣炎は、きちんと治療すれば問題なく治る病気です。ただし、薬の力でデリケートゾーンのかゆみなどの症状が治まってからも、膣内に原虫が残っている可能性があります。
自覚症状がなくなっても自己判断で薬の服用を止めたりせず、医師の指示通り最後まで治療を続けましょう。
※「膣」という字は医学上正しくは「腟」という字を使いますが、本記事においては一般のみなさまに親しみのある「膣」という字で記載しております。