不妊症の原因の一つでもある子宮筋腫。治療法としては手術やホルモン治療がよく知られていますが、漢方薬も子宮筋腫の治療法のひとつ。今回は、子宮筋腫に効果のある漢方薬にどのようなものがあるか、なぜ効果があるのかをまとめました。
そもそも子宮筋腫とは?
子宮にできる良性の腫瘍のうち、最も多く見られるのが「子宮筋腫」です。
筋腫が発生する原因ははっきりわかっていませんが、エストロゲンという女性ホルモンの働きが活発な20~40代の女性がかかりやすいこと、また、エストロゲンの分泌量が減る閉経前後に筋腫が小さくなることから、エストロゲンが子宮筋腫の発生・増大に関係しているのではないか、と考えられています(※1)。
子宮の内側や外側など、筋腫ができる場所には個人差があり、過多月経や不正出血、月経困難症や貧血といった症状の重さも人それぞれです。
基本的には良性の腫瘍なので、命に関わることはほぼありませんが、日常生活に支障が出るほどの症状があるときは治療が必要です。
また、筋腫によって子宮内膜が圧迫されたりすると、受精卵の着床を妨げてしまい不妊の原因となることもあります。妊娠を希望する場合は、医師によく相談しておきましょう。
子宮筋腫を漢方薬で治療するメリットは?
子宮筋腫が見つかったとして、漢方薬での治療を選択するメリットは、どういった点にあるのでしょうか。ホルモン療法や手術療法とあわせてご紹介します。
漢方薬
漢方薬の治療は、ホルモンバランスを整え、根本的な体質改善を目指す方法です。子宮筋腫によって引き起こされる症状を改善したり、筋腫の成長を止めたりすることを目指します。
ただ、漢方薬だけで子宮筋腫を完治させることは難しく、副作用のリスクもゼロではありません。しかし、根本から子宮筋腫ができにくい体質を作り、症状の悪化や再発を防ぐなどの目的で主に利用されます。
ホルモン療法
「GnRHアゴニスト」などのホルモン剤を投与することで、筋腫の原因と考えられているエストロゲンの分泌を抑制し、人為的に閉経状態にすることで、筋腫を縮小させることができます。
ただし、治療を中止すると子宮筋腫が元の大きさに戻ることがあるなど、ホルモン療法では子宮筋腫を完治させることはできません。また、長期間にわたって投与を続けると骨量が低下する恐れがあるため、6ヶ月以上継続することは推奨されていません(※1)。
手術療法
子宮筋腫を手術で治療する主な方法には、子宮を温存し、筋腫のみを取り除く「筋腫核出術」と、子宮そのものを切除する「単純子宮全摘術」があります。どちらも体にメスを入れる治療法なので、お腹や子宮に何らかの傷がついてしまう可能性があります。
筋腫核出術により、筋腫による症状が軽快し、手術後の妊娠が可能です。しかし、再発率が約20%あるのがデメリットです(※2)。
単純子宮全摘術では子宮筋腫の再発は起こりませんが、妊娠することができなくなるため、慎重に手術の実施を検討しなければなりません。
子宮筋腫は漢方薬で小さくなるの?
漢方医学的には、血の流れが滞ったことにより生まれた病的物質が原因で腫瘍ができると考えます。この病的物質を漢方医学では「瘀血(おけつ)」と呼び、「血(けつ)」の滞りがひどくなることで、刺すような痛みや不正出血といった症状が起きるとしています。
「血」の滞りが起こる原因は、以下のようなものがあります。
● 「血」を動かして体中を循環させている「気(き)」が滞っている
● 身体を潤わせ、「気」と合わさって「血」を生む「水(すい)」が滞っている
瘀血の原因は人それぞれで、子宮筋腫の漢方薬での治療では、まず「血」の流れを改善する生薬(活血薬)を含む漢方薬を処方し、さらに体質や症状にあわせた漢方薬を処方します。
「気」や「血」のめぐりを良くすることで、冷え症や貧血症状も解消され、子宮筋腫の発育を止めたり、小さくしたりするのに効果があると考えられています。
子宮筋腫に効果がある漢方薬は?
子宮筋腫の場合に処方される漢方薬には、主に以下のようなものがあります。他にも漢方薬はあり、症状によって処方される薬が異なるため、必ず医師か薬剤師に処方してもらいましょう。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血行を促進して身体を温める「桂皮(けいひ)」、利水作用があり、むくみやめまいに効果がある「茯苓(ぶくりょう)」、痛みを取る「芍薬(しゃくやく)」、子宮収縮の抑制やお血を散らして血行を促進させる「牡丹皮(ぼたんぴ)」、血行を促し鎮痛作用がある「桃仁(とうにん)」の5種類の生薬が配合されています。
桂枝茯苓丸の主な効能は、冷え症の改善、身体のうっ血緩和、消炎、鎮痛で、主に以下のような症状がある場合に処方されます。
● 不正出血がある
● 経血にレバーのような血の塊がある
● 生理痛で痛む場所が決まっている
● 肩こりや頭痛、下半身の冷えがある
なお、ホルモン剤と桂枝茯苓丸の投与を併用したことで、子宮筋腫・子宮内膜症の症状が改善したケースが83.0%、消失したケースが17.0%という報告データもあります(※3)。
婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
血の巡りを良くし、補血や強壮の効果がある「当帰(とうき)」や「地黄(じおう)」、疲労回復や食欲促進、利尿の効果がある「党参(とうじん)」、子宮下垂や冷え症、食欲不振の改善にも使われる「黄耆(おうぎ)」など9種類の生薬が含まれています。
婦宝当帰膠に配合されている生薬には、気血を補う作用があり、造血や血行促進の作用によって、子宮や卵巣の働きを高める効果や、冷え症の改善にも期待できます。
婦宝当帰膠は、主に以下のような症状がある場合に処方されます。
● 冷え症
● 貧血やめまい
● 肩こり、頭痛
● 生理不順
血府逐瘀丸(けっぷちおがん)
活血や強壮の効果がある「川芎(せんきゅう)」や「紅花(こうか)」、鎮痛鎮静の効果がある「柴胡(さいこ)」や「桔梗根(ききょうこん)」、利尿作用がある「牛膝(ごしつ)」など11種類の生薬が含まれています。
血府逐瘀丸の「逐」とは「質の悪い血を取り除く」という意味で、血液の循環を良くする効能があります。
主に以下のような症状がある場合に処方されますが、症状にあわせて他の漢方薬と併用されることが多い漢方です。
● 肩こり
● のぼせや頭痛
● 動悸
子宮筋腫を漢方薬で治療したいときは?
子宮筋腫を漢方薬で治療したいときには、漢方薬治療を扱っている婦人科を受診する方法と、漢方薬局で症状に合わせて漢方薬を処方してもらう方法があります。
漢方薬での治療効果を最大化するためにも、まずは婦人科で検査を受け、子宮筋腫の位置や大きさを把握しましょう。腫瘍の状態によっては、ホルモン療法や手術療法を優先したほうが良い可能性もあります。
また、体質によっては合わない漢方薬もあるので、自己判断で購入するのは避けましょう。副作用を引き起こし、下痢や吐き気、食欲不振といった症状に悩まされることもあります。医師や薬剤師に相談の上、服用するようにしてください。
漢方薬も子宮筋腫の治療方法のひとつ
漢方薬で子宮筋腫の治療をするとき、体質や症状に合わせて細かく漢方薬の種類や分量を調整してもらえる点や、子宮筋腫が育ちにくい、新たにできにくい体質に改善していける点がメリットです。
子宮筋腫の大きさや場所によっては、できるだけ早くホルモン療法や手術療法を実施した方が良いケースもありますが、それほど治療に急を要さない場合は、漢方薬を服用して気血のめぐりを整えながら、経過観察をするのも一つの選択肢です。詳しくは、医師に相談してみてくださいね。