晩婚化に伴い、不妊症に悩む夫婦は増えており、体外受精を試みる人もたくさんいます。ただ、体外受精は専門的な技術なので、わからないことも多いもの。特に、体外で受精させた受精卵を培養した後で子宮に戻す「胚盤胞移植」については、詳しく知らないという人も多いと思います。今回は、胚盤胞移植とはどういう手法か、着床時期はいつか、成功率はどれくらいかなどについてご説明します。
胚盤胞移植とは?何をするの?
胚盤胞移植とは、体外受精や顕微授精で得られた受精卵を培養し、ある程度成長させてから子宮に戻して妊娠を目指す「体外受精・胚移植(IVF-ET)」のうちの1つの方法です。
受精卵は細胞分裂を繰り返し、受精後2~3日たって4分割・8分割された「初期胚」になり、4~5日で8~16個に分かれた「桑実胚」、5~6日後には着床できる状態まで整った「胚盤胞」へと成長していきます。
採卵した受精卵を胚盤胞の状態まで培養して、子宮に移植をするのが、「胚盤胞移植」です。
胚盤胞移植の方法は?
胚盤胞移植には、培養した受精卵を同じ周期の中で移植する「新鮮胚移植」と、受精卵をいったん凍らせて保存し、別の周期に凍結胚を溶かして子宮に戻す「凍結胚移植」という方法があります。
いくつか受精卵(胚)が得られた場合に、新鮮胚移植を行ったあと、残った胚を凍結保存して別の周期まで待つ場合もあれば、新鮮胚移植はせず、最初からすべての胚を凍らせて保存する場合もあります。
日本産科婦人科学会によると、新鮮胚移植の着床率は約20%、凍結胚移植は約35%です(※1)。ただし、新鮮胚移植の方が金銭的負担や凍結・溶解による胚のダメージが少ない、というように、それぞれの方法にメリット・デメリットがあり、一概にどちらが良いともいえません。
また、胚移植の方針は病院や医師によって異なります。自分に合った方法で納得のいく胚盤胞移植ができるよう、医師と相談しながら検討しましょう。
胚盤胞移植の着床率は?妊娠しやすいの?
胚盤胞移植は、初期胚移植や桑実胚移植と比べて、受精卵がより成長した段階で子宮に移植するため、移植1回あたりの着床率(妊娠率)は上がります(※2)。
自然妊娠の場合、卵管膨大部で受精したあと、受精卵は分裂を繰り返しながら卵管の中を通過していきます。そして桑実胚の状態で子宮内にたどり着き、その1~2日後には胚盤胞の状態で子宮内膜に着床します。
体外受精や顕微授精の場合も、受精卵を胚盤胞になるまで培養させることができれば、自然妊娠に近い形で、子宮に移植した後すぐに着床へと進めます。
胚盤胞移植だけに絞った着床率については、統計データがあまりありませんが、弘前大学と青森県立中央病院の臨床成績によると、約52%という数値が出ています(※3)。
ただし、胚移植の着床率は胚の状態(グレード)、年齢、病院の技術力によっても変わるため、あくまでも目安と考えてください。
胚盤胞移植の着床時期や判定日までのスケジュールは?
胚盤胞移植を行うには、まず体外受精や顕微授精で採卵した受精卵を、体外で5~6日ほど培養させる必要があります。
胚盤胞の状態まで受精卵が成長したことが確認できたら、子宮の中に移植します。順調に行けば、移植の数日後に子宮内膜に着床します。
ただし、着床が成功した、つまり妊娠が成立したかどうかを確認するまでには7~10日ほどかかるため、確実に妊娠判定するために、胚盤胞移植から2週間前後たった日を「判定日」と設定し、妊娠性ホルモン値の血液検査をするのが一般的です。判定日は病院によって異なるため、医師に確認してください。
なお、判定日よりも前に市販の妊娠検査薬を使って「フライング検査」をする人もいますが、タイミングが早すぎるとホルモン値がまだ低いため、正確な判定結果は出ません。フライング検査をしたとしても、その結果を鵜呑みにせず、病院での正確な妊娠判定の日を待ちましょう。
胚盤胞移植のメリット、デメリットは?
胚盤胞移植には、メリット・デメリットがあります。その両方を理解したうえで、チャレンジするかどうか検討してみましょう。
胚盤胞移植のメリット
先ほどもご説明したとおり、初期胚移植や桑実胚移植と比べると、胚盤胞移植は着床率が高いのがメリットです。
初期胚の時点では、子宮内で順調に育つ良好な胚かどうか、見極めるのが難しいところです。しかし、もし胚盤胞の状態まで順調に培養させることができれば、子宮に戻す良質な胚を選別することができます。
胚盤胞移植のデメリット
胚盤胞の状態になってしまえば、比較的着床率は高いのですが、そもそも胚盤胞まで成長させることができる確率は30~50%程度で、採卵した受精卵のうち1個も胚盤胞まで育たないまま、胚移植自体がキャンセルになるリスクがあります(※2)。
胚盤胞は初期胚などと比べて培養期間が長いため、それだけ金銭的負担もかかります。また、採卵しても胚盤胞まで成長する保証がないため、妊娠できるまでの採卵回数が多くなり、治療費がかさむ可能性も。
そのほかのデメリットとしては、胚盤胞まで培養すると一卵性の双子が生まれる確率が約3%あるという点が挙げられます(※2)。一卵性双胎の場合、双胎間輸血症候群などのリスクがあり、赤ちゃんの命に関わる恐れもあるので、注意して対応する必要があります。
胚盤胞移植についてパートナーと話してみましょう
不妊治療の技術が進み、なかなか妊娠できないことで悩む人にとって治療の選択肢は増えています。しかしその分、どの治療法を選んだらいいのかわからない、といった不安もありますよね。
胚盤胞移植は、妊娠できる確率が高い一方で、金銭的負担やリスクもある胚移植方法です。医師とも相談しながら、夫婦でもよく話し合い、納得して選択できるといいですね。