【連載第7回 僕は癌になった】どう生きたかを伝えてほしい


もしあなたが今、余命3年と宣告されたら。残された時間の中で、何を思い、何を考え、どんな行動を起こしたいと思うだろうか。それがもし、愛する伴侶と、子供を残して死を迎えることがわかったとしたらー?
この連載は、余命3年の末期癌と宣告された、2歳の子どもと愛する妻をもつ35歳の一人の写真家による、妻へのラブレター。

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さいきん僕が一人で出かけようとすると、息子がなんとか阻止しようとする。棚からお菓子をとりだして一緒に食べようともちかけてきたり、絵本を読んでとお願いしてきたり、僕の荷物を引きずって部屋に戻したりする。

この日は出かける準備をする僕の足もとで、気をひくためにタヌキ寝入りをしていた。初タヌキ寝入りをする息子が気になってしまい、準備の手を止めて、音を立てずにジッと息子を見ていた。

物音が無くなって不思議に思った息子が薄目になって周囲を確認したとき僕と目が合った。息子が笑い出したので僕もおもわず笑ってしまい、そのまま遊んでしまった。まんまと息子のおもうつぼとなってしまった。

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ちゃんと帰ってこなければいけない。

息子のタヌキ寝入りは、福島第一原発近隣の帰宅困難地域に入る日の朝の出来事だった。

震災の日の朝、家族に見送られてそのまま別れることになった人がどれくらいいたのだろうか。少し寂しそうな表情の息子に見送りをされて、ちゃんと帰ってこなければいけないなと思いつつ新幹線に乗った。

東北の被災地に足をはこんだことは何度もある。だけど一般の立ち入りが制限される帰宅困難地域に入るのは初めてだ。息子が生まれてから、自分がガンになってから被災地を訪れるのも今回が初めてとなる。

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おなじ映画を見ていても、自分の年齢や環境が変わると感じ方が変わる。

「天空の城ラピュタ」が子どもの頃から大好きな映画だ。流れもセリフも全部覚えているけど、それでもまた見たくなる。いい映画ってそういうものだ。

子どもの頃は主人公パズーの立場に自分がなったつもりで見ていたけど、息子が生まれてからはパズーを見守る海賊船の女船長ドーラの立場になって映画を見ている。

なんども訪れた被災地でも感じることが違うのではないかと、少し期待もしている。今回は帰宅困難地域を訪れたことで感じたことを、妻に伝えるために手紙にしたい。

君と優くんのことがただ心配です

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いままで見てきた被災地は綺麗にされたものだったのだと、気づかされた旅でした。たくさんの悲しいものをこの旅で目にしたけれど、僕が一番感じたことは心配です。

いつか東京にも大きな災害があるかもしれません。そのときに僕が生きているか死んでいるか分かりませんが、君と優くんのことがただ心配です。

僕は二人のことを守ってあげられないどころか、僕が二人の足を引っ張ってしまう可能性だってあります。

平常時の常識では考えられないようなことを緊急時には決断することを求められます。そんなことを帰宅困難地域ではたくさん感じました。

僕はガンになって数年しか生きられないかもしれないけど、その前に災害で亡くなる可能性だってあります。

それは僕だけでなく、君にもおなじことが言えます。そして悲しいことだけど、優くんにすらおなじことが言えます。一年後に生きている保証は、健康な人にも、ガン患者にも、大人にも子どもにもありません。もしかしたら余命ってあんまり関係ないのかもしれません。

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僕が健康なときよりも忙しくなってしまって君は心配をしているかもしれないけど、僕はいつも二人のいる場所にちゃんと帰らなければと考えています。

心配する君の場所に帰ってくるから、あんまり心配しなくとも大丈夫です。

でも全く心配されないと、フラフラっと調子にのって旅に出ちゃいそうだから少し心配していてください。適度に心配されると僕も君に気をつかって適度に生活できそうです。

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今回お父さんが何をみて、何を感じて、何を考えたのか。おなじ景色でもきっと優くんが感じることは違います。

人はいつか死ぬということを忘れずに生きることが、僕は大切なことだと思います。

死ぬことは避けることができないけど、生き方は選ぶことができます。

優くんにはお父さんがどう死んだかよりも、どう生きたのかを君には伝えてほしいです。

また書きます。

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幡野広志

幡野広志

はたの・ひろし


1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。
https://note.mu/hatanohiroshi/
幡野さんの初の著書が発売されます。

ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。

要出典 幡野広志 ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。


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