「しつけ」ってどういうことだと思いますか。しつけと思って指示したり、叱ってばかりになったりしていませんか?
子どもを叱るのはどんな時?上手なほめ方ってあるの?そんな疑問を子どもたちに長年接している柴田愛子先生にお話しを伺いました。
柴田愛子先生
保育施設「りんごの木 子どもクラブ」代表。幼稚園教諭を経験後、自主保育、保育雑誌の仕事を経て、現職。著書に『子育てを楽しむ本』(りんごの木)、『それは「叱る」ことではありません』(PHP研究所)、絵本『けんかのきもち』『ぜっこう』(ポプラ社)など。
日本で一番厳しくしつけられている乳幼児
お宅ではどんなことをしつけていますか?あいさつ、食事のマナー、人に迷惑をかけない、将来自立できるように準備させる……。親によって、しつけの内容もさまざまではないでしょうか。
成人を過ぎ、中高年になった頃、子どもがどんな人になっているかは、わからないもの。礼儀作法を厳しくしつけた子、人に迷惑をかけないようにとしつけた子も、成人になってからもその教えを守っているかと言うと、そうでないこともあるでしょう。
電車の優先席で、前にお年寄りが立っていても、席を譲らない大人も少なくありません。ゴミを散らかしたり、マナーを守らない中高生も時々見かけます。そんな風に考えると、日本の中で一番厳しくしつけられているのが、乳幼児のような気がします。
0〜2歳児を持つ親への調査データがありますが、一番子育てで力を入れていることは「他者への思いやりを持つこと」。そのあとは「生活習慣を身につけること」と続きます。
2歳にならない子が、人を思いやる、人を不快にさせない、生活習慣をきちんとする……というのは、ほとんど不可能なこと。そのようなデータから見ても、いかに乳幼児が厳しくしつけられているかということが、見て取れるでしょう。
口で何回も言うより親の態度や姿勢で示して
親から子どもに最低限伝えていきたいことは、口だけで何度伝えても、伝わるものではありません。自分が育ってきた環境で培われたものを、理解していくのだと思います。
たとえば、「朝起きたら、おはようと言いなさい」「ありがとうと言いなさい」と何度も伝えるより、親自身が生活の中で、おはよう、ありがとう……と言っていれば、「こういう場面でこの言葉をつかうんだな」と、子どもが自然と吸収し身につけていきます。
ご飯を残さずに食べてほしいなら、親がまず残さずに食べること。そんな毎日の積み重ねを繰り返すことで、子どもに伝わっていくでしょう。
でも、2歳児なら遊び食べするのも当たり前。食事のマナーを身につけさせたいと思うなら、立ち歩けないようなイスを用意したり、食事やおやつの時間を工夫してお腹がすいたときに食べさせましょう。
小さな子にあれこれ要求するのは無理な話。工夫した上でも、親が思うようにならないことには、目をつぶる…くらいの心の余裕を持ちましょう。
叱り過ぎちゃった時はどうする?
「さっきは、すごく怒ってごめんね」
お母さんの気持ちを素直に打ち明けましょう。余裕があれば「お母さんは△△して欲しいと思ったけど、○○くんはどうしたらいいと思う?」と会話できるといいですね。
どうしても子どもにしつけたいことって何?
では、どんなことをしつけたらいいのでしょう。
一般的なしつけ論からすると、人を思いやる、迷惑をかけない、あいさつをする、規則正しく生活する……とキリがありません。
動作一つ一つに目くじらを立て、一日中叱ることになってしまい、親も子どもも疲れますね。「これだけは」ということだけをしつけましょう。
あなたが「子どもにしつけたい」と思うことは、ほかの人と違うことの方が多いと思います。「ここだけは譲れない」という価値観は、親によって違うものです。
「おはようを必ず言う」「ご飯を残さない」「ひじをついて食べない」……。親がしつけたいことは、子どもにとって理解不能なことも多いものです。
子どもに問いかけてみると、「なぜ、おはようと言わなきゃいけないの?」「なぜご飯を残しちゃいけないの?」という言葉が、たくさん返ってきます。
大人が「しつけ」と思っていることは、子どもにとっては「押しつけ」になっていることを理解しておきましょう。
親として、子どもに最低限「押しつけてでもさせたいこと」と考えてはいかがでしょう。
ドイツ語ではしつけを「die Zucht」と言い、これは「調教・訓練」という意味もあるそうです。親としてそこまでして子どもに教え込みたいことは何かを、考えてみましょう。
叱られる=自分を否定されること
叱られていることを、子どもがどのように受け止めているかを考えてみましょう。
子どもたちに親から言われたくない言葉を聞くと、「そんな子は、うちの子じゃありません」「あんたなんか大きらい」「いつもあなたはダメなんだから」……。
「叱る」ことは、否定です。
いつも叱られていると、子どもは「ママは僕のこと、好きじゃないんだ……」と子どももつらいのです。
子どもは、親から見捨てられると生きていけないと感じています。いつも叱られ、否定されていると、生きることを脅かされているような気持ちになります。叱られていることが多いと、心が不安定になります。
ほめるタイミングは子どもに合わせよう
ほめるときは、どんなタイミングでほめたらいいのでしょう。
子どもって「ママ見て!」って、ほめて欲しいタイミングを自分からアピールしてきます。そのときにほめてあげればいいのです。
自分で自信があるから「見て!」と言って、持ってきます。たとえばお絵描きを持ってきたら「でも、もっと色を使えばよかったね」なんて思っても、まずは「すごいね」「じょうずに描けたね」と、たくさんほめてあげましょう。
例えば縄跳びができるようになったときに「見て!」と言ってきます。100%完璧にできるようになったら、見てほしいと思わなかったりするもの。今までできなかったのに、10回のうち7回くらいできるようになったときに「見て!」ということが多いです。
だから、失敗することもありますが、「なんだできないんじゃない」「見てって、言ったくせに」…なんて言わないであげてくださいね。子どもは、前よりできるようになったから、見てほしいのですから。
子どもをほめるのが苦手というお母さんもいらっしゃいます。それなら、けなさなければいいのです。ちょっとやそっとでほめてくれないお母さんが、たまにほめてくれると子どもはとてもうれしいもの。
子どもを全面否定しない、いざという時には守ってくれる、子どもに伝わっていればいいのです。ほめて欲しいときを、気づいてくれるお母さんが、子どもは大好きです。
こんな時にほめよう!
「ねえ、見て!見て!」
子どもは上手にできて、ほめられたくって、たまらない時にこんな声かけをしてきます。家事の途中でも、手を止めて「すごいね!」ってほめてあげましょう。
ほめ方・叱り方 Q&A
いろいろな場面で悩むほめ方・叱り方。愛子先生にアドバイスをいただきました。
Q. 「おもちゃは買わない」って言い聞かせてきたのに、おもちゃ売り場を通ったら、また大泣き。どうしたらいいですか?(3歳男の子のママ)
A. その涙は「買って欲しい」涙ではなく、「思うようにならない」心の叫び。悔し涙は無理に我慢させず、状況が許すなら、思い切り泣かせてあげましょう。
その場で泣かせるのは気が引けるなら、そのままちょっと離れた場所に移動を。しばらく泣けば、気が済むはずです。
Q. 叱っても、全然言うことを聞いてくれません。(2歳女の子のママ)
A. 2歳児ですし、言葉を理解する能力がまだ未熟です。何に対して叱られているのか、わかっていないかもしれませんね。
叱るときには短い言葉で、気迫を込めて。お母さんの表情や声のトーンの方が伝わりやすいのです。
出典:miku 22号 2010年秋号
記事提供:絵本ナビ編集部
※掲載されている情報は2010年9月25日当時のものです。一部加筆修正をしています。