「思いやりが持てる人に」「誰にでも優しくできる人に」……。我が子にそんな大人になってほしいと、親は共通の願いを持っています。子どもの心が健やかに育つには、親として日頃からどんなことを心がけたらいいのでしょうか?
親の関わり方と子どもの育ちに詳しい安梅勅江先生に、お話を伺いました。
安梅勅江先生
筑波大学大学院 人間総合科学研究科教授。親子のエンパワメントやほめる行動に関して、大規模な調査・研究を行う。NHK『すくすく子育て』にコメンテーターとして出演中。子育て中のパパママのお悩みに優しく応える姿が印象的。
「育てる力」と「育つ力」が相互に引き出される関係が大切
おっぱいをあげる、おむつを取り替える、泣いたら応えて抱っこする、声をかけて安心させる……というように、親になったばかりの頃は、毎日が初体験の連続です。
「子どもを持って初めて知る世界がある」と、新米ママ&パパの多くが感じることでしょう。
人は、素晴らしい力を持って生まれてきます。その人本来の潜在能力や可能性、生きる力を湧き出させることを「エンパワメント(湧活)」と言います。
子育てにおいても「エンパワメント」はとても大切なことで、子どもと親の相互関係の中で発揮されていくのが理想です。
日常生活の中で、ママやパパ、祖父母、周囲の人々による関わりを通して、子どもの「育つ力」が引き出されます。親の方も、子どもによって未知の経験が与えられ「育てる力」が引き出されるのです。
子育てを通して、親子の信頼感と絆が深まっていきます。
人との関わりの基盤が形成されるのが乳幼児期。子どもの心身の健やかな育ちに必要なのは、第一に「自分は充分に愛されていて、この世界は居心地がいい」と感じられることです。
一緒に外遊びをする、うたを歌う、絵本を読む、買い物に行く、家族で食事をする…というように、親子で行動を共にすること、規則正しいリズムで日常を快適に過ごせるよう整えるのが、子どものために親としてできることです。
健やかな子育ち・子育て環境セルフチェック
日々の子どもとの関わりについて、現状をチェックしてみましょう。子育てのストレスが大きかったり、悩みがある場合は、パートナーや、ママ友、パパ友、子育て支援センターなどに相談してみましょう。
□ 子どもと向き合って一緒に遊んでいますか?
□ 子どもと一緒に公園に行きますか?
□ 子どもと買い物に行きますか?
□ 子どもに本を読み聞かせていますか?
□ 子どもの好きな歌や童謡を一緒に歌いますか?
□ 同年齢の子どもの家族と、互いの家を訪問しあっていますか?
□ 家族そろって食事をしていますか?
□ 子どもをたたいたり怒鳴ったりしていませんか?
□ パートナーは一緒に子育てしていますか?
□ 夫婦で子どもの話をしますか?
「ほめる」とは「認める」こと
何気ないことを評価しよう
応答性を繰り返して自己肯定感を育む
生後すぐから、赤ちゃんはママやパパの声を聞き、表情を見て、気持ちを敏感に感じ取っています。泣いたらお世話をする、抱き上げる。きげんよくしていたら、「ごきげんだね」「かわいいね」と微笑みかける。
そんな対応を応答性と言いますが、このような行動を繰り返すことで、親子の信頼関係が育まれ、子どもの内面に「愛されている」「大切にされている」という実感、自己肯定感が育ちます。
自尊感情は認められることで根付く
「自分のことが好き」「自分が大切」と思える自尊感情は、生きる基本となるもの。その感情があってはじめて、他人にも同様の感情を持つことができるようになり、思いやりと優しさを表現できるのです。
自尊感情は、ほめられる、認められることで子どもに根付いていきます。実際の研究データでも、たくさんほめられた子どもは自己肯定感が育まれ、社会適応力が高い傾向にあります。
頑張っているプロセスも認める
ほめることが大事だと認識しているママは多いでしょう。
でも、親子のコミュニケーションに関する行動調査を実施したとき、実際に子どもをほめる行動をとった親は、たった5割程度でした。
ほめた方が良いとわかっていて、親としてはほめているつもりでも、実際には声かけや行動でほめていないことがほとんどです。
何かができたときにほめるのは悪いことではありませんが、「○○ができるあなたはいい子」と言うのは、条件付きの賞賛。それがクリアできないと、悪い子になってしまうと、子どもは感じます。
「ほめる」とは、言動を「認める」ことです。結果を評価するだけでなく、頑張っているプロセスも認めることが大切です。
「ほめなきゃ」と難しく考えず、子どもの頑張りを認める言葉をかけてあげましょう。
「いつも見守っている」と伝わる言葉がけを
子どもをよく観察してみると、「見て見て」と描いた絵を持ってきたり、できたことを見てもらいたがるときがあります。そのときは、すかさず対応して、「すごいね」「がんばったね」とほめましょう。出来不出来ではなく、がんばりを認める声をかければいいのです。
そしてもうひとつは、普通にできたことをほめること。朝起きて笑顔を見たら、「今日も○○ちゃんは元気いっぱいだね」。野菜を残さず食べたら「きれいに食べられたね。ママ嬉しいな」。他の子どもと関わる様子を見て、「お友達と仲良く遊べて、よかったね」などのひと声をかけましょう。
何気ない行動を認める、子どもがしている行動を肯定することで、子どもの自尊心が育まれ、親子の信頼関係がより強くなります。
「どうほめるか」「どんな言葉をかけるか」ということよりも、大事なのは「子どもにどう伝わるか」の本質の部分。同じ言葉を口にしても、感情がこもっていなければ、まったく子どもの心に響きません。「いつも応援してるよ」「○○ちゃんが嬉しいと、ママも嬉しくなっちゃう」と、子どもに伝わるように表現しましょう。
たとえ言葉をかけなくても、視線を合わせて笑顔でうなずけば、子どもは承認と愛情を感じて自信を持ちます。
日常のやりとりで、心からの笑顔が返ってくれば、ママとパパの愛情が伝わっている証拠です。
子どものほめ方、関わり方Q&A
子どものほめ方、関わり方について、安梅先生に聞きました!
Q. ほめ方がワンパターンでも、子どもにプラスになりますか?
A.大事なのは子どもの反応です。子どもが嬉しそうにしていますか?喜ぶ表情は親の愛情を快く感じているからこそ。そんな様子が見られれば、無理にほめようとしなくても大丈夫です。
ニコッと笑うだけでも、そばでやさしく見守るだけでもOK。大事にされていると感じて、子どもは安心します。
Q. たくさんほめると、ワガママになりませんか?
A. ほめることは、その時の子どもの言動を「認める」ということ。ほめ過ぎということはありません。ただし、子どもがぐずったり言うことを聞かない時に、ご機嫌を取るためにほめるのはNG。
同じことがあるたびに、「ほめてもらえないと満たされない」というパターンになり、逆効果です。しっかりハグしたり、目を見て優しく語りかけることで、愛情を感じさせましょう。
Q. つい「ダメ!」と言いがちです。どのように伝えるのがいいですか?
A. トラブルを避けるため、危ない時や人の迷惑になるような時は、しっかり「ダメ」と言うべき。きちんと目を合わせ、ダメな理由も短くわかりやすく伝えましょう。
「ダメ」と言っても、なかなか1度や2度では伝わりませんが、親子の信頼関係が育まれ、子どもの気持ちが満たされていれば、ダメと言われることはだんだんしなくなっていくでしょう。
親の安定した心の状態が子どもの落ち着いた情緒を育む
目と目を合わせること、抱っこやおんぶすること、ベビーマッサージなどのスキンシップは、情緒性を豊かに育てます。
肌が触れ合うと親子ともに脳内に愛情ホルモンが分泌し、穏やかで幸せな感覚になります。情緒が落ち着き安心しますから、赤ちゃんの頃は大いにスキンシップをはかりましょう。
ママから少しずつ離れようとし始める2〜3歳頃は、抱っこやベビーカーばかりで過ごすのではなく、子どもが自由に動ける環境を整えましょう。
「子どもは親の背中を見て育つ」という言葉通りで、ママやパパの言動をお手本にして子どもは育っていきます。
家族はもちろん、近所の方とあいさつしたり、お礼を言ったり、優しい言葉をかけたり。ママ友やパパ友、おじいちゃん、おばあちゃんと、自然体でおつきあいをしていると、その様子を見て人との関わり方を子どもが学んでいきます。
子どもと向き合うには忍耐とパワーが必要です。正解もありません。だからこそ、ママ自身が、第三者から認められることが原動力になります。
パートナーから「がんばってるね」と言葉をかけられたり、ママ友同士で「お互いよくやってるよね」とねぎらいあえたら、心のパワーチャージができますね。何よりも親の心が安定していることが、子どもの健やかな心の成長に繋がります。
時には自分の時間を持ってリフレッシュしたり、悩みはママ友や専門家に相談して育児ストレスをためないようにしましょう。自分なりの楽しみを見いだし、笑顔で子どもと向き合えるといいですね。
出典:miku 40号 2015年春号
記事提供:絵本ナビ編集部
※掲載されている情報は2015年3月25日当時のものです。一部加筆修正をしています。