子供が悩んでいたり、つらい思いをしていたら、親として素早く気づいてあげたいもの。とはいえ、なかなか気づけないこともありますよね。
そこで今回は、子供が出すSOSサインの種類や気づくコツについてご紹介します。
お話しをうかがったのは、児童精神科の看護師で、SNSで子供との接し方について情報発信をしている「子どもの精神科看護師@こど看」さんです。
子供の出すSOSサインは4種類ある
ーー子供が出すSOSサインにはどのようなものがあるのでしょうか?
子どもの精神科看護師(以下、こど看さん):子供のSOSサインというのは無数にあるので、挙げだすとキリがありません。
というのも、お子さんごとに育った環境が違うし、親との関係性も違うからです。
ただ、その上であえて挙げるとすると、大きく分けて「増える」「減る」「強くなる」「弱くなる」の4種類かなと思っています。
「増える」というのは、たとえば暴言が増える、性的な発言が増える、ボディタッチが増えるなどですね。
「減る」は、髪の毛やまつ毛が減る、体重が急激に減る、睡眠時間が急激に減る、食欲が減るなどです。
「強くなる」は、バッグを投げつけたりドアの開け閉めが強くなったりなどの物への当たりが強くなったり、語気が強くなったりなど。頭痛などの身体的な症状が強くなるというのもあります。
「弱くなる」というのは、反応が弱くなるというのが代表的です。たとえば声をかけてもボーッとしているとか、友達の誘いを断れないなど押しに弱くなったり、寒さ暑さに弱くなったりですね。
そもそも子供の普段の状態を知っているか?
ーーわかりやすいですね。
こど看さん:そうでもないんですよ。なぜなら、これらはその子の普段の状態を知っていなければわからないからです。
普段からボディタッチが多い子であればボディタッチが増えてもSOSサインではないだろうし、いつも反応が弱い子であれば返事がなくても心配ないかもしれない。
いつもの状態を知っているからこそ、睡眠時間が減っていることに気づけるし、今日はやけに語気が強いなとか感じ取れたりするわけです。
だから、何かが増えていたり、何かが減っているからといって、それが即SOSサインになるとは限りません。
ーー「こうなったらSOSですよ」といったマニュアルがあるわけではないのですね。
こど看さん:たとえば看護の教科書には「意欲の低下」と書かれていたりするんですが、じゃあ具体的に意欲の低下が何かというと、それは人によって表れ方が違うので教科書は説明してくれません。
実際には「いつも外に遊びに行っていたのに、行かなくなった。もしかして…」みたいなことがあって、そのとき初めて意欲が低下したんだと気づける。
その子のいつもの状態を知っていると、SOSサインが徐々にわかってくるっていう感じですね。
子供のSOSに気づけない人の特徴
ーー子供のSOSに気づける人と気づけない人の違いはどこにあるのでしょうか?
こど看さん:その子に関心を向けているかどうかだと思います。たとえば、SOSサインを見つけようと子供の食事量をチェックするとします。
でも、本当に見なきゃいけないのは普段のその子の様子なわけです。その子のいつもの食事量を知っているからこそ、食欲が減っていると気づける。
「SOSサインを見逃したくない、見つけたい」という気持ちはすごくよくわかるんですが、それが強すぎるあまりSOSサインばかりに目がいってしまっては、その子の普段の様子を把握できません。
SOSサインというのは、子供に関心を向けた結果に見えてくるものなんですよ。
一歩踏み出して子供に関心を向けるべき
ーーSOSサインに気づくコツはあるのでしょうか?
こど看さん:子供のいつもの様子を「知る」のではなく、「知りに行く」というのが重要です。
例えば、子供がゲームをやっているのを見たら「リラックスしてゲームしてるな」「これがこの子のいつもの状態なんだな」と思うかもしれません。
でも、それで終わりにせず、そこからさらに「最近どんなゲームやってるの?」と声をかけてみる。
何も起きてないときでも、こちらから子供に関心を向けるというのがポイントです。
その子のいつもの状態をより深く知ることができるし、子供は「この人にSOSを出してもいいかも」って思ってくれるようになります。すると、ますますSOSサインに気づきやすくなります。
親であれば子供に関心を持つのが当たり前だと思われるかもしれませんが、そこからさらに一歩踏み出してもらえればより一層気づきやすくなるはずです。
体全体で「あなたに関心がある」と伝える
ーー子供のSOSサインに気づいたら、どう接すればいいでしょうか?
こど看さん:いつもとちょっと違うなというのを感じたら、まずは「あなたに関心を向けているよ」というのが子供に伝わるように行動で示すといいと思います。
例えばパソコンで作業をしているときに子供が泣きながらつらいと言ってきたら、どうしますか?
普通はパソコン作業を止めると思うのですが、私だったらその時に顔だけでなく体ごと子供の方に向けます。
パソコン作業を止めることで「あなたに関心があるよ」と伝わりますが、体ごと向ければ「あなたの話を聞く準備ができているよ」ということも伝えられます。
さらに、少し前かかがみになって子供に近づけば「大丈夫、話していいんだよ」とこちらの気持ちが伝わるでしょう。
顔だけ向けて話すのと、体を全体を向けて話すのでは、「自分への関心度」が全然違うと子供は感じるものです。
大人に相談してもムダだなと思わせないこと
ーー子供がSOSサインを発してきたときの注意点はありますか?
こど看さん:子供の発する考えや思いを「そのまま受け止める」ということですね。とはいえ一番難しかったりするわけですが…。
たとえば、「◯◯という理由で先生が嫌い、信じられない」といったようなことを相談されたときに、「いや、もしかしたら先生にも理由があるのかもしれないよ」「勘違いなんじゃない?」と言いたくなったりすることがあるかもしれません。
でもそれは、あくまでこちらの主観や価値観、判断によるものです。
まずは子供の言うことを受け止め、「辛い思いをしているのはよくわかったよ。話してくれてありがとう」と伝える必要があります。
もし親の判断で「あなたの勘違いじゃない?」と言ってしまったら、「SOSを出しても受け止めてくれない」という経験がその子に刻まれてしまい、大人に相談しても無駄だという感覚が強くなってしまいます。
「早く言ってくれたらよかったのに」は禁句
こど看さん:SOSを出してくれた子供に対して、「早く言ってくれたらよかったのに」という言葉も使わない方がいいですね。
この言葉は、子供からすると「あなたに責任がある」と言われているのと同じなんです。
「早く言ってくれたらよかったのに」というのは、「あなたが早く言ってくれたら、こっちで対応できたのに。何で言わなかったの?」と責めているように受け取られてしまいます。
言われた子供は当然「言わなきゃよかった」と思うでしょう。すると、また同じことがあったとしてもSOSを出してくれなくなります。
「早く言ってくれたら…」と言いたくなってしまいますが、その気持ちをグッと堪えて、「ありがとう」と伝えたり、「気づけなくてごめんね。何があったの?」と伝えたいですね。
SOSを出す子と出せない子の違いとは?
ーーそもそもSOSを口に出してくれる子とそうでない子がいると思うのですが、その違いはどこにあるのでしょうか?
こど看さん:SOSを口に出して、それを受け取ってもらえて、適切な反応を返してもらうという経験があるかないかだと思います。
大人でも同じだと思うのですが、この人相談しやすいなっていう人はしっかり話を聞いてくれる人ですよね。
反対に「最近もう何か人間関係で苦しくて…」と相談したときに、「そんなものは気合が足りないからだ」とか言われたら、「もうこの人には絶対相談しない!」と思いませんか?
「この人は自分のSOSをしっかり受け止めて、反応してくれる」という認識や関係性ができてさえいれば、子供はSOSを出してくれると思います。
子供は自分の気持ちを正確にはわからない
こど看さん:ただ、基本的に子供は自分からはSOSを出せないと思った方がいいかもしれません。臨床の現場で子供と接していて、つくづくそう思います。
子供たちにとってSOSを出すというのは結構ハイレベルなスキルなんです。
だって大人だって躊躇するじゃないですか。たとえば「最近疲れてつらいな、死にたいな」と思ったときに、それを人に言うことってできますか?
経験や知識がある大人でもそう思うってことは、経験も知識も乏しい子供からするともっと難しいはずです。
でも、大人より経験が少ない子供たちは自分の気持ちを正確には把握できません。強い怒りを感じているのにそれが怒りだとわからず、SOSとして出せないことがあるというのは知っておいてほしいですね。