不妊治療における体外受精や顕微授精の技術は向上し、体外で受精卵を培養して着床しやすい状態まで育ててから子宮に戻す「胚盤胞移植」ができるようになりました。胚盤胞移植の際、胚盤胞の発育具合や状態によって「グレード」が異なり、それによって妊娠率にも影響がでます。今回は、胚盤胞のグレードの内容や、グレードの違いによる妊娠率の違いについてご説明します。
胚盤胞とは?移植の成功率は高いの?
女性が自然妊娠すると、受精卵は「初期分割胚→桑実胚→胚盤胞」と細胞分裂を繰り返しながら、卵管から子宮へと運ばれていきます。子宮の中に到着する時点ではまだ桑実胚の状態ですが、胚盤胞の段階まで成長してようやく、子宮内膜に着床できるようになります。
「胚盤胞移植」とは、体外受精や顕微授精で得られた受精卵を、子宮内膜に着床できる「胚盤胞」の状態まで培養したあと子宮に戻す方法です。胚盤胞まで成長するのは、採卵後5~6日目です。
初期分割胚の状態で子宮に戻す「初期胚移植」の場合、移植後に胚盤胞まで成長できず、着床に至らないというケースもあります。しかし、近年では体外培養の技術が進んだことにより、着床直前の胚盤胞まで行える確率が上がり、移植あたりの妊娠率増加に寄与しています(※1)。
胚盤胞のグレードとは?
胚盤胞のグレード分類には、「ガードナー分類」というものが主に使われています。まず「胞胚腔」という胚内部の空間の広がり具合によって、以下のとおりグレード1~6まで分類されます(※1)。グレードの数が大きいほど成長が進んでいて、着床しやすい受精卵であるといわれています。
● グレード1:初期胚盤胞(胞胚腔が胚盤胞全体の50%以下)
● グレード2:初期胚盤胞(胞胚腔が胚盤胞全体の50%以上)
● グレード3:胚盤胞(胞胚腔が全体に広がっている)
● グレード4:拡張胚盤胞(胚盤胞の外側を取り囲む透明帯が薄くなる)
● グレード5:ハッチングが開始(透明帯を破って卵子が孵化しはじめている)
● グレード6:ハッチングが完了(卵子の孵化が完了している)
さらに、胎児の元となる細胞の「内細胞塊」の状態と、胎盤に変化する「外細胞塊(栄養外胚葉)」の状態によって、それぞれ評価が高い順にA~Cの3段階で分類されます。
たとえば、「4AB」であれば、グレード4の胚盤胞で、内細胞塊の状態が「A」、外細胞塊の状態が「B」ということを意味します。
胚盤胞のグレードによる妊娠率の違いは?
一般的に、胚盤胞の培養期間は5~6日間ですが、少し成長が遅い場合は7日目に胚盤胞が見られるケースもあります。
採卵5・6日目を比べたときの着床率については、「5日目胚盤胞の方が6日目胚盤胞よりも優れている」という研究報告もあれば、「発育段階が同じであればどちらも変わらない」というデータもあり、因果関係ははっきりしてません。
胚盤胞が着床する成功率は、グレードだけではなく、子宮のコンディションやタイミング、年齢などにより異なります。また、内細胞塊と外細胞塊の評価を加味すると、期待される妊娠率に違いが見られる場合もあり、やはり一概には言えません。
ただし、病院や医師によっては「5日目胚盤胞しか移植をしない」「6日目胚盤胞は凍結保存し、別の周期に移植する」など基本方針を決めている場合もあります。
体外受精や顕微授精のあと、胚盤胞移植を検討する場合は、医師と相談したうえで選択するようにしましょう。
胚盤胞を凍結保存する方法もあるの?
胚盤胞移植には、培養させた受精卵(胚)を同じ周期内で子宮に移植する「新鮮胚移植」と、胚をいったん凍らせて保存しておき、別の周期に凍結胚を溶かしてから移植を行う「凍結胚移植」という2つのタイプがあります。
一般的に、凍結胚移植の方がやや妊娠率が高いとされていますが、新鮮胚移植よりもコストがかかり、凍結・溶解により胚がダメージを受ける可能性があるなど、どちらの移植方法が良いかという判断も難しいところです。
病院や医師によって方針が異なる場合もあるので、得られた胚盤胞のグレードも考慮したうえで、納得のいく移植方法を選びましょう。
胚盤胞のグレードは妊娠率に関わる要素の1つ
医療技術の進歩により、初期胚移植よりも妊娠率が高いとされる胚盤胞移植も、不妊治療に有効な選択肢の一つになっています。体外受精や顕微授精に取り組みたいと考えている夫婦にとっては、より成功率の高い選択肢があるのはうれしいですよね。
今回ご説明したとおり、胚盤胞のグレードは、妊娠率を左右する大きな要素の一つです。「少しでもグレードの高い胚盤胞に成長してほしい」と祈るような気持ちで待っている人も多いと思いますが、あまりストレスを溜めこまず、体を大切にして過ごしてください。
新鮮胚と凍結胚、どちらを使うかも含め、医師やパートナーとよく相談のうえ、納得のいく形で不妊治療を進めていきましょう。