心身の成長に伴って言葉を身につけていく幼児期。日々子どもにどのように関わり、どんな言葉をかけたらいいのでしょうか?
子どもの心と言葉の育ちに詳しい、小児科医の梅村浄先生にお話を伺いました。
梅村浄先生
梅村こども診療所(東京都西東京市)院長。院内に「ことばの相談室」を開設し、言葉に困難を抱える子どもたちの研究や支援に20年以上関わっている。2010年、モンゴルで障害のある子どもの支援活動を始めたのを機に、一般診療をクローズ。現在は予約制で、子どものことばの育ちや心理相談などに応じている。
ママと赤ちゃんの日常の関わりが
言葉を身につける学びの機会
日々、大人は何気なく使っているものですが、言葉は大事なコミュニケーション・ツール。言葉の育ちは、脳や心身の発達にも関連しています。
赤ちゃんは、言葉を介さずにコミュニケーションしています。妊娠7ヶ月頃になると聴覚が発達してきます。
ママの声や大きな音に反応して、おなかの赤ちゃんが動いたという経験を持つ方は多いでしょう。親子の関わりは妊娠中から始まっているとも言えるでしょう。
生後2ヶ月頃になると赤ちゃんが、きげんの良いときやママの顔を見て「アー」と声を発することがあります。「ごきげんね」「今日はいいお天気ね」などと声をかけましょう。
また、ママの姿が見えず赤ちゃんが泣いていたら「ハーイ、どうしたの? ママいるよ」と対応したり、「○○ちゃん、おはよう!」などと名前を呼んで声をかけましょう。
赤ちゃんは言葉で表現できなくても、ママの表情から感情を読み取ったり、周囲の雰囲気を敏感に察知して、全身で感じています。
泣いているのにいつも無視し続けたり、「どうせわかるわけない」と否定的なことばや怒りの感情をぶつけないようにしましょう。
子どもの反応に応答する日常の積み重ねが、親子関係の信頼と愛着を育みます。言葉をかけることで、気持ちや場面が、赤ちゃんの中に言葉として蓄積されていきます。
ママ自身が楽しんで関わると
話したい気持ちが自然と育つ
「あー」と発するだけだった赤ちゃんが、名前を認識して「ママ」「わんわん」と言えるようになり、状況を理解し、言葉を組み合わせて「おそと、いく」と表現するようになる。
このように、言葉はどんどん発達していきます。「伝えたい」という思いによって、自然に言葉が増えてくるのです。
言葉がけが大事だからといって、熱心に教える必要はありません。一番大事なのは、ママやパパ自身が毎日の関わりを楽しむこと。
その思いを感じ取ると、赤ちゃん自身も「ママやパパと話したいな。もっと声を聞きたいな」という気持ちになります。「話したい」「伝えたい」という欲求が心に自然と育ってくることが、言葉の発達にとても重要です。
「おなかすいたね」「楽しいね」「○○ちゃん、ごきげんに遊べていいね」などとほめたり、状況や気持ちを言葉にしてみましょう。
簡単な言葉にリズムをつけて話してみたり、即興でメロディをつけて歌ってみたり、繰り返すと赤ちゃんは喜びます。
ちょっと照れてしまうママやパパは「いないいないばあ」などの手遊びをしたり、言葉の繰り返しが楽しい絵本を読んであげるのもおすすめです。
シチュエーション別言葉がけの参考例
月齢に合わせた言葉がけの例を紹介します。ママやパパは声をたくさん聞かせてあげてくださいね。
生後1ヶ月頃
ママの笑顔とやさしい声が赤ちゃんを安心させます。短い言葉をゆっくり話すと、赤ちゃんは受け止めやすいでしょう。
「〇〇ちゃん、おむつ替えるよ。おしっこ、出たね。スッキリ、気持ちいいね。」など
生後8ヶ月頃
赤ちゃんは繰り返しを楽しみます。根気強くつきあうことが、動作と言葉を結びつけます。
「〇〇ちゃんのおてて、パチパチパチ、上手だね。」など
1歳頃
食べ物の名前も伝えながら話しかけましょう。楽しい食事の雰囲気も大切に。
「いただきまーす。かぼちゃ、もぐもぐ、おいしいね。自分で食べて、えらいね。」など
1歳半頃
指差しをするのは、興味を持っている証拠。視線の先にあるものを説明すると、言葉の理解が広がります。
「ワンワンだね。白くて小さくて、かわいいね。ワンワン、大好きだね。」など
2歳頃
動きを言葉にして伝えましょう。体や手足を動かす遊びが結びつきます。気持ちや賞賛を言葉で伝えましょう。
「競争しよう!よーい、どん!」「ゴール!早く走ると気持ちいいね。すごいなー。」など
言葉の育ち方は個人差が大きい
その子のペースを大事にしよう
話し始める時期、言葉の増え方、発音の明確さには、個人差があります。きょうだいでも違いますから、言葉の育ちのペースは持って生まれたものの影響が少なくないようです。
他の子と比べて「うちの子はことばが遅い?」と不安を抱くママもいます。聴覚などの障がいがなく、聞こえていて言っていることがわかり、声が出ていれば、スローペースの子どもも、3歳頃までには言葉が出るようになるものです。
無理に言わせようとする、何度も発音させるなど、言葉の訓練をするように親が接しては、子どもはかえって話したくなくなってしまいます。
その子の育ちのペースを尊重しながら、言葉をかけ、表情を見せて、日々の関わりを楽しみましょう。
言葉がある程度子どもの心にたまっていくと、一気にシャワーのようにあふれ出して、急におしゃべりになる時期が来ます。
1歳半健診では、言葉の発達のチェックも行われます。もし遅れが気になる時は、まずは保健所に相談してみましょう。
「言葉が出ないからどうするか」という視点ではなく、言葉が出てくるような親の声かけや関わり方をアドバイスしてくれるでしょう。
毎日のコミュニケーションが大切!
言葉の発達プロセス
子どもが言葉を話せるようになるには、一定のプロセスがあります。
ママとパパとの日常の関わりが学びの機会。繰り返し聞くことで言葉を覚え、発音を反復することで、話す力が育っていきます。子どものペースを尊重し、コミュニケーションを楽しみましょう。
1. 生後1〜2ヶ月頃から発声
ごきげんな時や呼びかけに応じて「あー」「うー」と声をあげる。
声を発した時に「はあい、〇〇ちゃん」と名前を呼んで応答を。生まれてすぐから、日常のあいさつ言葉を伝えるようにしましょう。
2. 喃語(なんご)の時期
「バーブー」「マンマ」「だぁだぁ」「ばぶばぶ」のように、意味をもたずに声を発する。
「バイバイ」「にぎにぎ」と声に出して手遊びをしたり、視線の先を指差して「〇〇よ」と声をかけましょう。
3. 始語(しご)の時期
「まんまん」が「ママ」「ぱっぱっ」が「パパ」のように、喃語(なんご)から意味のある言葉に変化して言えるようになる。
言葉が出たら「〇〇ちゃん、そうだね。パパだね」と認め、繰り返してあげましょう。
4. 言葉が増える時期
人のやモノの名前や呼び方を認識し、「わんわん」「ぶーぶー」など反復する言葉を発したり、「これ」と指差すようになる。歌や絵本の中の言葉も理解できるようになる。
「あっ」と指を差したら「〇〇よ」と名前を答えてあげます。まねるようになるので、手遊びや歌を一緒に楽しみましょう。絵本に興味を示すようなら、短い言葉の文の読み聞かせもOK。言葉を教えるのではなく、コミュニケーションの楽しさを味わうことを目的に。
5. 二語文、多語文の時期
単語が50〜60語になると、「ワンワン、きた」「おんも、いく」のように自然と二語文が出るようになる。状況表現、気持ちや行動と言葉がつながって、「おおきいワンワン、いっちゃった」「あたま、ごっつん、いたいいたい」などと多語文で表現するようになる。
ごっこ遊びや手遊び歌、絵本の読み聞かせなど、興味を示すことに楽しく関わりましょう。口元をじっと見るのは発音を学ぼうとするとき。言葉をキャッチしやすいよう、ゆっくりはっきり話しましょう。
取材・文/中野洋子
出典:miku 39号 2014年冬号
記事提供:絵本ナビ編集部
※掲載されている情報は2014年12月25日当時のものです。一部加筆修正をしています。