子どもにとって、ママやパパからかけられた言葉は大人が思う以上に大きな意味を持ちます。毎日の生活の中で、わが子に話しかける時にどんなことを心がければ子どもがすこやかに育っていくのでしょうか。
赤ちゃんや子どもへの言葉のかけ方について、東京学芸大学教授、副学長の菅野敦先生に伺いました。
菅野 敦先生
東京学芸大学教授。知的発達障害心理学を専門に、知的発達障害の障害発達とその支援についての研究を行う。日本発達障害学会理事長、日本発達障害支援システム学会会長などもつとめる。
親子の時間を楽しむことから
生きた言葉が生まれる
育児書などを見ると、「言葉をまだ話せない赤ちゃんにもたくさん声をかけましょう」「乳児期から親が言葉のシャワーを浴びせると、子どもの言葉も育ちます」などと紹介されています。
これらは確かに正解ですが、言葉をかけてもその内容をまだ理解できず、反応することもできない赤ちゃんに言葉をかけるのは、ちょっと難しい…と感じることもありますよね。
「言葉がけは大切らしいから、うちの子にも何か言葉をかけなくちゃ」という義務感から、親が思いついた言葉を一方通行的に伝えるだけでは、子どものすこやかな育ちにはつながりにくいでしょう。
ママやパパは、まず「子どもと一緒にいることを楽しもう」「子どもと一緒にいろいろな活動をしよう」と考えてみましょう。
大切なのは、「生活の中で、子どもと正面から向き合う場面をいかに意識して作るか」ということです。
子どもの成長に応じて、親子で思いっきり遊んだり、一緒に活動していると、言葉は自然と生まれてくるものです。親子の自然な関わりから出る親の言葉。声のトーン、表情などからも、子どもは親の思いをキャッチしています。
親が言葉をかけると、まだ話が上手にできない赤ちゃんでも、声を出したり、表情や体で自分の思いを表現しようとします。このやりとりから親子のコミュニケーションが生まれ、これが親子の信頼関係のベースとなります。
子どもをのばす言葉かけの場面
子どもの成長に沿った遊びのなかで、言葉をかけよう。
0歳代の声かけ
ねんねやおすわりの0歳時代は、抱っこしてゆらゆらしたり、くすぐったり、木や花を一緒に見たり、箱を一緒に叩いてみたり……。これ『感覚遊び』。
「赤ちゃんを喜ばせなくちゃ」などと肩に力を入れず、ママやパパ自身が「楽しい」と思える方法で遊びましょう。
「こちょこちょこちょ、くすぐっちゃうぞ~」「お花キレイね~」など、子どもと触れ合っている時にママやパパが感じたこと、思ったことをそのまま言葉にしましょう。
子どもは大好きなママやパパと遊びながら言葉をかけられることで、言葉と行動、気持ちを結びつけていきます。それがベースとなり、回りの人からの働きかけにも自然に反応するようになります。
1歳代の声かけ
歩けるようになり、動作が活発になる1歳代は、『運動遊び』を。
手をつないで一緒に歩くことはもちろん、親子で向かい合って座り、両手をつないで「ぶーらんぶーらん」と舟こぎごっこをしたり、小走りする子どもを「待て待て~」と追いかけっこしたり。
「おうまパカパカ」「うさぎさんぴょんぴょん」など、まねっこ歩きをしながら言葉をかけるのもいいですね。遊具やおもちゃを使わなくても、体遊びやスキンシップの声がけを通して、親と子がお互いに相手をより意識することができます。
1歳半〜2歳代の声かけ
1歳半から2歳くらいになったら、『簡単なお片づけや衣服の脱ぎ着など、身の回りの活動』を通して言葉をかけましょう。
子どもは1歳過ぎくらいになると、「モノを入れる」という動作ができるようになるのに加え、相手の言葉を何となく理解でき、簡単なお片づけができるようになります。
「ゴミをゴミ箱にポイしてね」「おもちゃを箱に入れてね」などと言葉をかけ、できたら「じょうずね」とほめましょう。衣服を脱ぎ着するときも、子どもと一緒に「おててが入ったね」「足が出たよ」と声をかけながら楽しい雰囲気を心がけて。
3歳代の声かけ
3歳代になったら、お皿やお箸を並べたり、タオルなど小さな洗濯ものを畳むなどの『お手伝い』を教えましょう。
お片づけやお手伝い、衣服の着脱など生活の中で一緒に活動しながら言葉をかけることは、子どもが「やってみたい」と思い、方法を覚え、「自分でできるようになりたい」という気持ちを育みます。
親子のコミュニケーションをスムーズに行うには、基本的な生活のパターンができていること、おもちゃや子どもに並べてもらう食器などが出し入れしやすくなっていることが大切です。子どもが自分で動くことができるように、子どもを取り巻く環境を整えましょう。
言葉がけするときのポイント
子どもの言葉の発達に応じた言葉かけを
感覚遊びを楽しむ乳児期には「トントントンだね」「きらきら光っている」など擬態語を使い、2歳前後で二語文が出始めた事には「わんわんがいたね」「ボールがなくなっちゃったね」など、親も二語文に近い言葉かけを。
子どもの語彙の発達に応じた声かけを心がけるようにすると、より伝わりやすくなります。
朝時間を丁寧に過ごしながら言葉がけを
朝は、朝食~登園の準備などで子どもも親も忙しいものですが、少し早起きして、登園までの時間を長めに取ってみましょう。
そして、「起床→着替え→歯みがき→親子遊び(家の近くを少し散歩)→朝食→排泄→登園準備→登園」といった毎日の流れを作ってみましょう。それぞれの活動に関わりながら親が言葉がけすることで、親子のコミュニケーションがより密に取れるようになります。
「早く」「だめ!」はNG!
わかりやすく伝えよう
幼児期になり、回りの人との意思の疎通がある程度できるようになると、身の回りのことやお手伝いもだんだん上手になってきます。
子どもにお手伝いをお願いするときは、以下の4つを、なるべく簡潔な言葉でわかりやすく伝えることが大切です。
①今何をしてほしいか
②それはどのようにするのか
③どこから始めてどこで終わるのか
④その活動はどこでするのか
「早くしなさい」や、「ダメでしょ!」など、責め立てたり否定する言葉は避けましょう。
「早くしなさい」は、親である大人の都合から出てくる言葉。具体的なアドバイスを伴わないこの言葉は、子どもには単なる「音」にしか聞こえません。
年齢に合わせて「お部屋の時計の針が○になるまでに片づけよう」など、目当てを示して声をかけましょう。
「ダメでしょ!」など子どもを否定する言葉は、子どもを叱る時に出てしまいがち。
危険なことをした時や乗り物の中で騒いだりした時は、感情を出して叱ることもOKですが、うっかり飲み物をこぼしたり、力が入って絵本を破ってしまった時などは、「叱る」のではなく「教える」スタンスで。
「コップはこうやって持とうね」「絵本は優しくめくろうね」など、具体的な対処法を伝えましょう。
パパとママからかけられた言葉は一生の宝物
心身が著しく発達する乳幼児期に、ママやパパからかけられた言葉は、その子の一生の宝物になります。子どもと一緒に遊んだり活動し、子どもの成長を楽しみながら「言葉」という愛情を伝えていきましょう。
絵本ナビ編集部
出典:miku 44号 2016年春号
※掲載されている情報は2018年3月25日当時のものです。一部加筆修正をしています。