これからの時代を生き抜いていくために、子供の理系的な才能を伸ばしてあげたいと考えている人は多いでしょう。
そのために必要な力が「理系脳」と言われていますが、それを超えた能力、いわば『シン理系脳』を育てなければいけないと主張している小学校教師がSNSで注目を集めています。
今回は、現役小学校教師で、オリジナルの理科授業・科学実験が人気を博している理科教育のスペシャリスト「ぴお」さんに、5〜6歳児の『シン理系脳』の育て方をうかがいました。
「理系脳」だけでは生き残れない?
ーーこれからの時代に必要なのは理系脳と言われていますが、ぴおさんは理系脳の育て方に関して積極的に発信をされていますね。
そうですね。ただ僕が言う理系脳は、一般的に言う理系脳とは違う意味なんです。
ーーどう違うんでしょうか?
一般的には、数字や客観的な根拠に基づいて物事を判断したり、考えたりできることを理系脳と呼ぶと思います。しかし、それでは物事を表面的にしかとらえられません。
数字などに基づいて判断するというのは理系脳として当然のことです。でも現代では、その数字自体が操作可能で、算出する方法や数字を発表する人の立場次第でいくらでも変わってきます。
ーーなるほど、確かに…。
だから物事の本質に踏み込んで判断することが必要で、そのためには、自分なりに、現象から理論を作り上げて考えることが求められているんです。
どういうことなのか説明するために、これまででいちばん理系脳が発達しているなと思った、ある3年生の子の話をさせてください。
3年生の理科には「ものの重さ」という単元があって、粘土の形を変えても重さは変わらないという事を学習します。
ある年に寒天粘土を使ってそれを学ぶ授業をしました。
粘土の形をいろいろ変えながら重さを測り、最後に各グループごとに測定結果を発表してもらったのですが、どのグループも形を変えた前後の粘土の重さが変わっていたのです。
じつは寒天粘土というのは普通の粘土と違って手の体温で水分が蒸発してしまうので、時間が経つと重さが変わってしまいます。
最近の子供たちは教科書を先に読んでいたり、他のさまざまなメディアから学習していたりするので、すでに通常の粘土を使った実験結果なら知っています。
だからその時も、みんな粘土の形を変えても重さは変わらないと思っていたのです。でも、予想とは違う実験結果なので戸惑っていました。
ところが最後に実験結果を発表した子がこう言ったんです。
「教科書に粘土の重さは形を変えても変わらないと書いてあったけど、どのグループも変わっていたので、ものの重さは変わるのかもしれないと思いました」、と。
ホントっぽいウソにだまされないために
ーーいわゆる「質量保存の法則」の実験ですよね。一般的な「理系脳」では、普通の粘土が形を変えても質量が変わらないことは理解できるけれど、寒天粘土のようなイレギュラーな場合にはフリーズしてしまう、と。
そういうことです。この3年生の子は私が今まで見てきた児童の中で、いちばんの理系脳を持っていると思います。
ーー理系脳の進化形、『シン理系脳』とでも表現すればいいのでしょうか…。びおさんは、なぜ『シン理系脳』が必要だと考えているのでしょうか?
真実を見抜くためです。
理系脳でなくても生きていけると考えている人は多いでしょう。実際、自分で革新的な理論や技術を生み出せる人は一握りだし、多くの人は他人の作った理論や技術で幸せな生活を送っています。
でも一方で、数字や言葉に騙されたり踊らされたりして不幸になる人もいます。そして、それらに振り回されず、正しい判断を下すには『シン理系脳』が必要です。
ーー確かに、自分で判断することが難しい時代ですよね。
ちょっと話はそれますが、「最強の物質DHMO」をご存じですか?
ーーDHMOですか、聞いたことないですね。
この物質は「水酸」と呼ばれて酸性雨の主成分になり、地球温暖化にも関わっています。重篤なヤケドの原因にもなるし、大量摂取して死ぬこともある。
多くの材料の腐食を進行させ、サビの原因になる。末期がん患者の悪性腫瘍からも検出されるし、いろいろなジャンクフードにも添加されている。
こう聞くとめちゃくちゃ有害な物質に思えるし、アンケートを取れば「規制すべき」と答える人がたくさんいるでしょう。
ーー確かに。害しかないように感じます。
でも実はこれ、「水」のことなんです。あらゆる生き物に必要な水ですら、有害な部分だけを切り取るとこういう表現になってしまいます。
実生活で専門的な知識や科学的な知識が必要な問題が多くなってきているので、専門家や有識者の言っていることを鵜呑みにせず、自分の頭で考える必要があります。
その時に必要なのが、『シン理系脳』なのです。
子供のシン理系脳を潰しているのはあなた
ただしそもそも人間には、「シン理系脳」が備わっていると考えています。
ーーそうなんですか??
人間の脳みそは生まれた時から学習する意欲に満ちていて、知識や理論をたくさん吸収できるようになっています。
多くの動物が本能だけで生きていけるのに対し、人間は後天的にたくさん学習して生きる術を身につけないと生きていけませんから。
小さい子があらゆるものに対して「なんで?なんで?」と言うのはそういうことです。でも、それを大人が論理的でない説明で答えるから、潰してしまう。
ーー子供のシン理系脳を育てるチャンスを大人が潰してしまっている可能性があるんですね。
そうです。ただ、一発で理系脳が潰されるということはありません。
もし潰されてしまっているのだとしたら、それは理論で説明できない関わり方を毎日しているということだと思います。
結局、毎日親がやっていることが子供に強く影響するんです。
日ごろから子供に対して論理的に受け答えしている親が、たった1日だけ感情的に怒りをぶつけてしまったとしても問題はありません。
でも、日ごろから理屈に合わないことをやっている親が、いきなり1日だけ論理的になってもシン理系脳は育ちません。
毎日ちょっとずつでいいので、子供に対して理論で説明できる接し方をしてほしいですね。
シン理系脳は遊びの中で育つ!
ーーシン理系脳を伸ばすためにおすすめの方法はありますか?
砂遊びがおすすめですよ。物質を形作っている原子の動きや性質を直感的に理解するのにぴったりなんです。
砂遊びを通して、粒が流体のような動きをするという実感を持てますし、粒が集まって形を作るという性質も感覚的にわかってきます。
これはまさに中学・高校で学ぶ分子論で、直感的にわかるというのが後々役立ちます。
だから型抜きやコップで砂をすくったり、それをこぼしたり、水と一緒に流したりなどの体験をたくさんさせてあげてほしいです。
そのとき「水みたいに流れるね」「粒が集まって形ができるんだね。」などの声かけをして、体験を経験に変えていくのが効果的でしょう。
あとは、「水切りネットでこぼれない水」とかもいいですよ。
コップの口に流し台の水切りネットを被せ、水の中でコップの口が下を向くようにひっくり返します。その状態から水切りネットの面を水平にしたままコップを引っ張り上げると、なんとコップ内の水が出てこないんです。
小学校でこれをやってみせると、「知ってる!表面張力っていうんでしょ」と言ってきたりします。
私はそのときにちょっとだけ説明を加えて、「水の分子さんはとっても仲良しで、アミアミの穴の上の落ちそうな水分子さんを他の分子さんが手を繋いで支えているから落ちないんだよ」と伝えています。
ポイントは、子供が理解しやすい形で原理を説明することです。
疑問に丁寧に答えると自分で考える力がつく
ーー楽しませるだけでなく、説明するのが重要なんですね。
遊ばせて、子どもが興味や疑問を持ったら説明してあげる。この繰り返しで、「現象→理論」があることを理解させるのが重要なんです。
それを理解した子どもなら、気になることに対して「なぜ?どうしてこうなるのかな?」と自分で考えるようになります。
遊びに限らず、生活の中の疑問についてできる限り丁寧に答えてあげることが大切です。
「なんで雨が降るの?」と子供が聞いてきたら、「海で温められた水が水蒸気になって空に上がり、雲になるからだよ」と答える、とかですね。
疑問に答えられないときは、正直に「分からないから図書館で一緒に調べてみようか?」「パパはここまでしか分からないから、学校で先生に聞いてごらん」などと言えるといいと思います。
あなたのその説明、理論がありますか?
ーー逆に、シン理系脳を育てる上で子供に対してやってはいけないことはありますか?
「理論」で説明できない関わり方はするべきではないと思います。
例えば、子供が疑問を口にしたときに「とにかく言うことを聞きなさい」「理由なんてありません」と言ったりすることですね。
先ほどの「なんで雨が降るの?」という疑問に対して、「それはね、お空が泣いてるからよ」と答えることも同じです。それは理論で説明したことにはなりません。
子供の理系的才能を伸ばしたいと考えている親御さんたちには、そのあたりを意識してお子さんに接してあげてほしいなと思います。
ーーありがとうございます。私自身も親として気をつけます…!
ぴお
小学校教師
「子どもの可能性を無限に伸ばす」がモットーの小学校教師。幼稚園、小学校、中学校(理科)、高校(理科)の教員免許を持っており、モンテッソーリ教育やドーマンメソッド、アドラー心理学などの研究もしている。ブログ「5歳までにやっとこう!」やTwitterでは、小学校低学年でのつまづきのなかでも、特に幼児期に原因があるものについて対策法などの情報発信をしている。
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