自己肯定感が「下がる」子育ての方法。

育児において、子どもの自己肯定感を高めることが大切ということは、多くの方が知っていることでしょう。では逆に、「自己肯定感が下がる子育て」とは、どんな子育てなのでしょうか?

「自己肯定感が下がる子育てをされた」という精神科医の岡本浩之先生は、その経験ゆえに、自己肯定感を高める子育ての大切さを伝え続けています。

今回は岡本先生に「自己肯定感が下がる子育て」の方法をうかがいました。

4回のうつの原因は、自己肯定感の低さ

落ち込む 男性

はじめまして、岡本浩之と言います。本業は精神科医ですが、「うつ病ドクター」という肩書きで、インスタ、Twitter、YouTubeなどでも情報発信をしています。

私はうつ病を4回経験しています。1回目が中学1年生のときで、2回目が高校2年生ごろ、3回目が大学2年生ごろ、4回目が精神科医になってからです。

今現在も完治はしていないのですが、服薬を続けていて症状的には安定しています。

うつ病になった主な原因は、自己肯定感の低さです。そして自己肯定感が低くなったのは、幼少期の環境が原因だったと考えています。

私が受けた「自己肯定感が下がる子育て」

叱られる 女の子

私は両親に対して常にビクビクしていて、いつ罵倒されるのだろう、いつ殴られるのだろうと不安を抱えながら育ちました。

よく覚えているのは、幼稚園の父親参観のときにクラスで伝言ゲームをしたときのことです。私は列の一番後ろで、最後にどういう言葉が回ってきたのか答える役でした。

ところが、いざその時になったら人前でしゃべるのが恥ずかしくて、答えられなかったんです。それを見ていた父は激怒して、「お前は頭がおかしい」と叩かれながら家まで帰りました。

3つ上の兄と比べられ続けるのも、私にとってはつらい経験でした。

父はことあるごとに私に対して「兄はこれだけすごいんだ」「兄はこれだけ頑張ってたぞ」と言っていたのです。そういうことが何度も続き「兄はすごいのになんで自分はダメなんだろう…」と思うようになっていきました。

父は怒って殴り、母はショックで寝込んだ

プレッシャー

親に意見を言えない環境だったというのも、自己肯定感が下がるひとつの要因でした。

父親はすぐに手が出るタイプだったので、口答えすれば殴られたり怒鳴られたりするのが目に見えていました。

反対に母は、ちょっと反抗的なことをするだけでショックで寝込んでしまうような、父親とは真逆のタイプだったんです。

自分のせいで親が寝込んでしまって部屋から出てこないというのは、何度見てもショックな光景です。「このまま死んでしまったらどうしよう…」と考えてしまい、親に意見を言うエネルギーが消えていきました。

「悪いこと」で自分を慰めたくなる気持ち

夜 公園 ベンチ

中学の時、近所のコンビニで不良の同級生が集まって遊んでいたので、家を抜け出して彼らに混ざって一緒に遊んでいた時期がありました。

いわゆる「グレかけた」状態です。私はたまたまそこから抜け出すことができましたが、どんどんエスカレートしていってしまう子の気持ちもよくわかります。

非行に走るのは、自己肯定感が低いからという要因は確実にあります。

自己肯定感が低い子は自分を認めてほしいんです。手っ取り早いのが人と違うことをやって目立つことなんですが、「悪いこと」がまさにそれです。

悪いことをしているというのは自分をちょっと慰めてくれるんですよね。その歯止めが効かないと、どんどんエスカレートしていってしまいます。

両親は私にレールをきっちり走らせたかった

親子 叱る 泣く

私の両親は子育てに対してプレッシャーを感じていたんだと思います。

父は大学教授で、母は元教師でした。世間的に「教育者」と思われていた人たちなので、その子供がダメな子だったらいけないという強迫観念があった気がします。

もしかしたら、父と母は子供とどのように接したらいいのかわからなかったのかもしれません。

特に父親は、自分の実家とあまりうまくいってなかったようなんです。実際、私の目の前で父と祖父が喧嘩してるところを何度も見ました。

父親としてお手本となる存在が身近にいなかったんだと思います。

今から思うと、2人とも視野が狭かったんでしょうね。

特に父親は「勉強さえできていれば他はどうでもいい」という考えで、そういうことをずっと言われ続けました。

推測にはなりますが、根っこには「頑張ってほしい」「跳ね返して強くなってほしい」という思いがあったんだと思います。

でも、「自分たちの子供はこうあるべき」というレールをきっちり走らせることに固執してしまった結果、あのような接し方になってしまったのかもしれません。

私がしてほしかった子育てを、子供に

父 子

「本当はこうしてほしかった」という思いが私にはたくさんあります。それを子供にしてあげたいと思って子育てをしていて、特に意識していることが2つあります。

1つ目は、否定しないこと。

私は怒られたり否定されてばかりでした。私もついつい子どもの「できない部分」「うまくいかなかった部分」に目が行ってしまうことがあります。

でも、そこをグッとこらえて「できなかったけど頑張った部分」を見てあげることが大事かなと思います。

これは私が親にやってもらえなかったことなので、特に気をつけています。

自分が頑張ったことを「頑張ったね」とちゃんと評価してもらえていたら、もうちょっと楽に生きられたかもしれません。

世の中、結果だけを見て判断されてしまいがちです。せめて子供の一番近くにいる親くらいは「結果は悪かったけど、◯◯は頑張ったよね」と認めてあげたいです。

2つ目は、とは言っても悪いことをしたときはしっかり注意すること。

「何が何でもほめなきゃいけない」ということはないと思います。ただ、なぜそうなったのかという過程の部分に目を向けてあげることが大切だと考えています。

たとえば子供が万引きしたとします。当然、怒らなきゃいけませんよね。

でも、もしかしたら子供は何かしらストレスを溜め込んでいて、それをうまく吐き出せず、発散の手段として万引きをしてしまったという可能性もあります。

そういうときに、ただ「万引きはダメだ」と言うだけでは子供は同じことを繰り返してしまいます。

ダメなものはダメだと言いつつも、万引きするに至った背景や過程というのをちゃんと理解してあげることが重要だと思います。

自己肯定感が低いからこそ
「自己肯定感は高い方がいい」と思う

棒グラフ

自己肯定感は低いよりは高いに越したことがないと思っています。

人生には失敗がつきものです。しかし自己肯定感がしっかり育まれている子であれば、たとえ失敗したとしてもそこから立ち直りやすいのです。

「自分はまだ大丈夫」「たった1回失敗しただけ」と考えられるので、挫けにくい。長い目で見たときに、結果的に「成功した人生」を歩みやすいといえるでしょう。

それと、自己肯定感が高い方が人と安定した関係を築きやすいというのもあります。

自己肯定感が低い子は、過剰に気遣いをしたり、逆に過剰に依存してしまったりして、自分も疲れるし相手も疲れさせやすい。その結果、人間関係が壊れてしまうことがあります。

精神疾患を持っている人もそういう傾向があるんですが、彼らも自己肯定感がすごく低いんです。

「自己肯定感が低い=精神疾患」ではないのですが、一方で私のように精神疾患を発症する要因の1つに自己肯定感の低さがあるので、そういう意味でも非常に大切だと思います。

自分の価値観で子供を縛らないようにしたい

植物 太陽

人間はどんなにうまくいっていても、ある日突然それが崩れてしまうことがあります。でも反対に、どんなにうまくいっていなくても、何かのきっかけで立て直せることもある。

だからこそ、「自分はこういうふうに生きてきたから」「自分の生き方が正しい道なんだ」という価値観を子供には押し付けないようにしていきたいです。

(まとめ:編集部)


岡本浩之

岡本浩之

精神科医


うつ病経験のある精神科院長。精神保健指定医。産業医。自らの体験を生かしてクリニックを開業し、毎日診療を行っている。また、心の不調に悩むスポーツ選手の診療も行い、選手が悩みを吐き出して回復し、能力を発揮できるようサポートしている。SNS等でも情報発信中。

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