子どもの個性をどのようにとらえていますか?子どもは、自分とは異なる人格を持った人間。わが子のパーソナリティをどう受け止め、尊重したらいいのでしょう。
子どもの心の発達と親子関係に詳しい、青木紀久代先生にお話を伺いました。
青木紀久代先生
お茶の水女子大学に発達臨床心理学の研究室を持ち、子育て支援の現状を通して、家族のコミュニケーションが子どもの発達にどう影響するかなどを研究。大学や地域の子育て相談機関の基盤作りに関わるほか、臨床心理士として子育てに悩むママのカウンセリングや支援を行っている。
“この子らしい”と感じる部分が個性
「泣いてばかりで神経質すぎるのでは?」「何をするにもスローテンポで心配」などと、親はわが子の一面が気になることがあるもの。
一つの特徴が、その子の個性として目立っているからとも言えますし、自分にはない部分のため、理解できずにそう感じるのかも知れません。
個性(パーソナリティ)とは、「その人らしさ」という言葉に置き換えられます。
生まれながらの要素として色濃く現れる「気質」、親や周囲の人々との関わり、経験を通して形成される行動や感じ方の傾向である「性格」、社会的な人間関係や活動を通して形成されてくる「人格」も含め、あらゆる要素を通して「その人らしい」と表現できるもの。それが個性です。
目立った個性があっても
関わり方次第で平均に収まる
ある臨床研究によると、生後まもなくの赤ちゃんでも、「のんびりした子」「マイペースで動じない子」「デリケートな子」というように、生まれながらの気質の違いが見られることがわかっています。なかには、繊細すぎたり、反応がゆっくりめなどの個性が目立つ赤ちゃんもいます。
でも、ママは他の子のことはわかりませんから、わが子が一番。子どもとの関係を、一生懸命に結ぼうとします。
赤ちゃんとの時間を心地よく快適に過ごしていると、1ヶ月後には、個性が際だっていた赤ちゃんも、落ち着いた個性の範囲に収まってくるという研究結果が出ています。
「その子らしい」と感じる部分=個性を大切にしながら、愛情を持って関わっていくことが大切。
そんな関わり方によって、育てるのが大変と思われるところが補わたり、尖った部分は丸くなって、バランスよく個性が育っていきます。
例えば、のんびり屋さんのいい面が出ると、何事も丁寧に取り組む子に、気まぐれ屋の部分が落ち着くと、好奇心旺盛という“いい部分”が輝いてくるということです。
2歳児のイヤイヤの自己主張は
それまで人格を尊重して育てた証
魔の2歳児と言われる段階に入ると、「子どもがかわいいと思えない」「気が合わないと感じてしまう」というママは少なくありません。
親の思い通りにできていた1歳までと違い、子どもが「イヤなものはイヤ」「これをしたい」と自分の思いを主張し始めるからです。
この時期、ママは子どもの個性を改めて見て、向き合い方、コミュニケーションの取り方を仕切り直すことが大切です。
2歳を過ぎてイヤイヤが始まるのは、自我が芽生えてきたという成長の証。
親が子どもの人格を尊重し、大切に関わってきたからこそ、自己主張できるようになるのです。「これまでの育て方が正しかった」と、ママは自信を持ちましょう。
最初の子どもは、親が気を遣って丁寧に関わるので、いい意味で「わがまま」になるものです。ところが多くの親は、第三者からの視線を気にして、個性を抑えこもうとしてしまいます。
子どもがわがままを言えるのは、何が好きで何が嫌なのか判断し、自分の感覚で物事を主張する力がある証拠。
逆に、自分の意志がはっきりせず、人に流される子どもの方が、親としては心配ではないでしょうか。
自己が確立していれば、打たれ強く、多少のことでつぶれない人間に育っていくものです。イヤイヤが始まったら、上手に気持ちを受け止め、意志を尊重してあげることが大切です。
正反対の個性を持つ親子は
お互いを成長させてくれる関係
例えば、何事もテキパキとこなせるママは、のんびりしている子どもに向き合うと、イライラすることが多くなるでしょう。
潔癖性のママは、泥だらけで遊ぶ男の子の行動に、ついていけないと思ってしまうかも知れませんね。
親子でありながら、個性が正反対というケースは珍しくありません。その関係を通して、子どもは出過ぎたところが収まり、ゆるやかなところが補われてバランスよく育っていくものです。
ママの方も、忍耐力や許容力がついて、人間的に成長する可能性があります。親と子の個性のぶつかりあい、相互作用が、プラスに働くような関係性を築いていけたらいいですね。
親子のコミュニケーションは毎日続くもの。親子という関係からは逃げられません。子どもの個性を、無理に親に合わせようとしないことも必要でしょう。
もちろん度が過ぎればいさめることは必要ですが、走り回りたい、どろんこで遊びたいなど、子どもがやりたい気持ちはできるだけ尊重してあげましょう。ママの許せる範囲を広げてみると、親子で衝突することが少なくなります。
ママ自身がまずは気持ちに余裕を持って、「イヤイヤも成長のステップ」「今の親子の関係を楽しもう」とプラスに考えてみましょう。
指示して親の言うとおりにさせるのではなく、「どんな言葉をかけて本人に決めさせようか」「どうスキンシップを図って気持ちを落ち着かせようか」と、対応の仕方を工夫してみましょう。
個性が短所に感じられるときは
ポジティブな表現に変えてみよう
子どもの性格や特徴が、気にかかる(気にさわる)ときは、物事をマイナスに見ているケースが少なくありません。
短所に見える部分も視点を変えてみれば、必ずプラス(長所)の見方ができるはずです。ポジティブな表現に置き換えてみましょう。
「言うことをきかない」など、親をイライラさせる子どもの言動は、その時期の成長を考えれば、当たり前のことも多いものです。
子どもの言動がイライラの引き金になっているだけで、実はママ自身が悩みや不安(やりたいことができない焦りや、パートナーに対する不満など)を抱えていることもあるんですよ。
子どもに感情的に怒鳴ったり叩くたりなど、行き過ぎてしまう時は、第三者に相談して“心のエステ”を受けてみるのも賢い選択です。
子育ての知恵をもらえる場として、保育園や児童館の子育てひろば、子育て支援センターのほかに、大学の心理相談室などもあります。
適度なリフレッシュを心がけ、ストレスをためないことが一番。ママ自身が気持ちに余裕を持って関わることが、子どもの個性を伸ばしていくことにつながります。
プラスの考え方で、子どもの個性が伸びる!
子どもの印象をプラス表現に置き換えてみましょう。弱みと感じていた個性が、その子の強みになっていきます。
毎日の関わりの中で、「○○ちゃんのこういうところがママは大好きよ」と言葉をかけてあげましょう。
乱暴な子 → 活発でたくましい子
メソメソする子 → 感受性豊かな子
わがままな子 → 意思表示ができる子
ノロノロな子 → ていねいな子
頑固な子 → 芯が強い子
神経質な子 → 繊細な子
落ち着きのない子 → 好奇心旺盛な子
消極的な子 → 控えめな子、人のことをよく見ている子
すぐに譲っちゃう子 → 思いやりのある子
ふざけてばかりの子 → 人を楽しませるのが得意な子
イライラや怒りは「1分以内」と決めよう!
感情的に怒り続けても、子どもは何のことで怒られたのかわからなくなってしまいます。
あれもこれもと、過去のことまでさかのぼるのもよくありません。怒られることがとても多かったり、長時間に及ぶと、子どもは「自分は悪い子」「愛されていない」と心が傷ついてしまいます。
ママ自身も、後で自己嫌悪に陥って傷つくこともあるでしょう。イライラや怒りは「1分以内」と決めましょう。
子どもに伝えるべきことは、ひと言で済ませます。叱った後は、例えば「おやつにしよう!」と、その場を切り替える工夫をしましょう。
怒りが収まらなければ、子どもから少し離れましょう。深呼吸する、風に当たる、手を水で洗う、音楽をかけるなども気分を切り替えるのに効果があります。「今から1分だけ叱るよ」と言葉にするのもおすすめです。
絵本ナビ編集部
出典:miku33号 2013年夏号
※掲載されている情報は、2013年7月25日当時のものです。一部加筆修正しています。