痛みが和らぐお産の方法として人気が高まっている無痛分娩。一方で、重大な事故が発生し、そのリスクに心配の声もあがっています。無痛分娩について今知っておきたいことを産婦人科医の岡田十三先生に伺いました。
岡田 十三先生
1994年神戸大学医学部卒業。2003年より愛仁会千船病院に勤務。地域周産期母子医療センターでハイリスク症例や院内助産院の管理に携わる。2017年より同センター長。
日本でも増えている無痛分娩
分娩の痛みを和らげる出産方法を無痛分娩(和痛分娩)と言います。
ソフロロジーやラマーズ法などメンタル面のサポートも広い意味では無痛分娩です。分娩に対する不安を除き、リラックスしてお産に望むことが目的です。なかでも、局所麻酔薬を用いて下半身の痛みを和らげる方法が一般的に無痛分娩と呼ばれます。
日本では全出産の6.1%(2016年)が麻酔薬を用いる無痛分娩。年々増えています(※1)アメリカでは経腟分娩の約73.1%(2018年)、フランスでは経腟分娩の約82.2%(2016年)が麻酔薬を用いる無痛分娩です(※2)。
欧米では出産は大病院に集約される体制が整っていますが、日本では出産の半分を診療所が担っており、無痛分娩の約5割が診療所での出産です(※3)。
欧米に比べて産科医不足、麻酔医不足であることが、日本で無痛分娩が少ない一因です。
無痛分娩は硬膜外麻酔を使う
無痛分娩には、以下の2つの方法があります
① 陣痛が来たタイミングで出産する。
② 計画分娩(誘発分娩)
日本では、365日24時間無痛分娩に対応できる施設は少ないため、計画的に分娩日を決め、薬などを使って陣痛を起こす計画分娩が多くなっています。
無痛分娩の際は、硬膜外麻酔を用います。リスクが低く、胎児に影響がない低濃度の麻酔薬が使われるのが一般的です。
背中に入れた細い管から麻酔薬を注入しますが、下半身の痛みを和らげる麻酔のため意識はあります。痛みが軽くなるだけで無くなるわけではありません。
無痛分娩のメリット・デメリット
お産に100%安全はありえませんし、赤ちゃんやお母さんの状況は一人ひとり違うものです。リスクを知ったうえで「自分と赤ちゃんに一番いい方法」を選択することが大切です。
無痛分娩の主なメリット
● リラックスした状態で分娩をすることで安産につながる。
● 血圧の高い人は痛みが和らぐことで血圧が上がりにくくなる。
● 精神的な持病を抱えている人が安心してお産に臨める
無痛分娩の主なデメリット
● 費用が高い(Q&A 参照)。
● 吸引・鉗子(かんし)分娩の確率が増える。
無痛分娩Q&A
Q. 無痛分娩にかかる費用は?
A. 施設によって異なりますが一般的に通常の分娩+5~15万円ほど。基本的に保険適用外ですが、帝王切開になった場合などは健康保険や民間の医療保険給付の対象になることも。麻酔の副作用等で入院が延びたり、薬が処方された場合は自治体によっては助成金の対象になることもあるので確認しておきましょう。
Q. 無痛分娩で、その後の子育てに影響はないの?
A. お産の方法によって子育てに影響が出ることはありません。赤ちゃんが生まれてから早い時期に赤ちゃんとお母さんが肌で触れ合う早期母児接触が大切だとされており、リラックスした出産は好影響な場合もあります。母乳に関しても、無痛分娩や麻酔薬による影響はないとされています。
無痛分娩をする施設の選び方
施設によって無痛分娩のやり方に大きな違いがあります。希望する際は、早めにかかりつけの医師や助産師に伝えましょう。その施設で対応できない場合は紹介してくれることもあります。
施設選びのポイントとして「産科麻酔の専門医がいるか」で選ぶのが一案ですが、このような施設は全国的にも限られています。
総合病院でも個人病院でも、十分な知識と経験を持った産婦人科医や麻酔科医はいます。個々の病院に問い合わせて無痛分娩時の体制や、今までの症例、トラブルが起こった時の対応など、詳しい説明を受けた上で施設を決めましょう。
出典:miku 50号 2017年秋冬号
※掲載されている情報は2017年12月25日当時のものです(無痛分娩の割合調査の数値は更新しています)。他一部加筆修正しています。
絵本ナビ編集部