真夏には注意している熱中症ですが、実は5月頃から油断ができません。気温の上昇により5月頃からすでに熱中症になりやすい気候になりはじめているため、赤ちゃんや子どもにも熱中症の予防対策をしておくことが大切です(※1)。
そこで今回は、赤ちゃんや子どもへの熱中症対策について、ママたちが感じている疑問を小児科専門医でかくれ脱水委員会メンバーの十河先生に聞いてみました。
5月から熱中症に注意が必要な理由は?
5月といえども急激に気温が上がり暑くなる日もあります。まだ暑さに慣れていない時期なので体温調節がうまくできず、熱中症につながりやすくなります(※2)。
また、暑さに油断している5月は水分補給を忘れて水分不足になりがち。気づかないうちに脱水状態になっていることが多く熱中症の原因になります。
とくに赤ちゃんは体温調節機能が未発達で外気温にも左右されやすく、大人と比べて暑さに弱い状態です(※3)。自分で異変に気づけないことや、喉が渇いても対応できないため、パパやママがよく見守ってあげることが大切です。
赤ちゃんや子供の水分不足のサイン(※4)
以下より、該当するものが複数ある場合は水分不足のサインです。
- 口の中が乾いている
- おしっこの量や回数が減る、色が濃い
- 便が硬くころころしている
さらに脱水が進むと、皮膚が渇いて張りがなくなるなどのサインがあります。その場合は早急に病院を受診しましょう。
以下では、水分補給の方法や熱中症対策などに関する疑問を小児科医の十河先生に答えていただきました。
水分補給はどうしたらいい?
パパやママたちの疑問で多いのが、赤ちゃんや子供にどのくらい量の水分補給が必要か、またその回数です。水分補給について十河先生に聞きました。
Q1. 生後8ヶ月の赤ちゃんが麦茶を嫌がり、あまり飲みません。水分補給で摂るべき水分は何がいいですか?
十河先生
生後8ヶ月の赤ちゃんならあえて麦茶を与えなくていいですし、湯冷ましに白湯なども飲ませなくても大丈夫です。授乳中で母乳やミルクを飲んでくれるなら、それだけで問題ありません。
卒乳後は本人が飲みたいもので構いません。糖分は気になると思うので、運動後は糖分・塩分入りの飲み物、通常は水、という具合に状況に合わせて変えるのがおすすめです。
本人が飲みたがらないのであれば水分は足りているので、無理をして飲ませなくてもいいですよ。
Q2. 水分補給するタイミングや1日に何回という目安はありますか?
十河先生
1日に何回という目安は特にありません。
乳児で母乳やミルクを飲んでいたらそれだけでOK。過度に心配せず、基本的に「本人が欲しがったら飲ませる」で問題ありません。
ただし、気をつけたいのは卒乳後。卒乳後は遊びに夢中になっていると飲むことを忘れがちです。暑い環境にいて汗をかいているようであれば、こまめに声を掛けて水分補給をしましょう。可能であればお出かけ前、お出かけの最中、帰宅後の3ポイントの水分補給が理想的です。
Q3. 幼稚園生だとスポーツドリンクは子供用がいいですか?
十河先生
幼稚園生で運動している子供は大人用のスポーツドリンクを飲んでもOKです。ただし、それほど暑くない日で汗をかかない程度の軽い外遊びであれば、水や麦茶でもかまいません。気候や子供の運動量によって変えるのがおすすめです。
スポーツドリンクでポピュラーなポカリスエットを「子供に薄めて飲ませる」という話を聞きますが、本来飲んで摂ることができる成分が摂れないので、おすすめしません。ポカリスエットは運動時用のドリンクなので、糖分が多めに入っていて、運動中や運動後に水分・塩分・糖分を補給するために作られています。
もし、糖分が気になるのであれば、糖分が少なめで塩分が入っている経口補水液がおすすめです。
Q4. 経口補水液って何ですか?
十河先生
もともと急性胃腸炎(嘔吐下痢症)でも点滴ができない発展途上国地域で、点滴の代わりとして開発されたのが経口補水液です。
スポーツドリンクに比べると塩分が多く糖分が少ないため、脱水がないときに飲むとしょっぱく感じるかもしれません。しかし体に必要な水分と電解質を飲んで補えるので飲む点滴ともいわれ、点滴と同じくらいの効果があります。
日本でよく知られている経口補水液といえば、OS-1(オーエスワン)。
嘔吐下痢症の場合、体から塩分と水分がたくさん出てしまいます。夏場のたくさん汗をかく時期も、嘔吐や下痢したりしたときと同じくらい汗から塩分が出ることがあるので、短時間で大量の汗をかくときは、OS-1で少し多めに塩分を補充することをおすすめします。
もし、OS-1のドリンクタイプが飲みにくい場合は、比較的飲みやすいゼリータイプを試してみてください。ゼリータイプが苦手な場合はドリンクを製氷皿(トレイ)で氷にすると、味覚的にしょっぱさが抑えられて、冷たくて食べやすいのでおすすめです。
熱中症を予防する方法は?
Q5. 上の子の外遊び中、下の子(生後4ヶ月)の熱中症が心配です。熱中症対策はありますか?
十河先生
原則、日陰にいましょう。
感染症対策でレインカバーのようなシールドを使って外からの空気を遮断している人もいますが、中に熱がこもり日なたにいると同じで一気に温度が上がるため、注意が必要です。
また、地面に近いほど熱の影響を受けやすいので、ベビーカーで過ごす赤ちゃんは地面からの照り返しで熱を受けています。大人が涼しいと感じていても、赤ちゃんの様子を見ながらうちわで仰いであげたり汗を書いたら水分を飲ませてあげたりするのがいいですね。
ベビーカーでは、赤ちゃんの背中にタオルでくるんだアイスノンなどを入れて冷やしてあげるのもおすすめです。
抱っこひもで抱っこをしている場合は、ママと赤ちゃんが密着して熱がこもります。ときどき抱っこひもを外して風通しを良くしたり、うちわで仰いであげましょう。
Q6. 熱中症対策で間違ってやりがちなことを教えてください。
十河先生
おでこなどに貼る熱冷却シートは、皮膚の表面温度を下げるだけで体の中の温度を下げる効果はありません。蒸発時に熱を奪うので気持ちよく感じますが、熱中症予防のために体の中心温度を下げる効果は全くありません。
もし体を冷やすなら、首や脇などに直接冷たいものを当てましょう。
Q7. 熱中症対策に、普段の生活でできることを教えてください。
十河先生
熱中症は自分の体調に影響・関係します。夜ふかしをして寝不足気味など、生活リズムが崩れると熱中症を起こしやすくなるため、生活リズムを整えることが大切です。
Q8. 塩分系のアメを食べてくれないので、塩気の強いお菓子でも対応できますか?
十河先生
アメに関していうとあまり塩分が入っていないので、あまり熱中症予防にはなりません。食塩タブレットはそれなりに塩分が入っていますが、アメリカ小児科学会は塩分過剰になる可能性があるので子供には推奨しておらず、あまりすすめできません。
塩気の強いお菓子を食べるのはOKです。普段の食事で補うことも大切で、例えばスイカに塩をかけて食べると水分、カリウムというミネラルも摂れて塩分補給もできます。また、夏野菜に塩をふったり、味噌をつけて食べたりするのもおすすめです。
Q9. おでかけのときのは帽子はかぶったほうがいいですか?
十河先生
日射病(頭に熱が当たり体温上昇して体の血管が開くため、血圧が下がってめまいをおこす)予防のために帽子をかぶって頭の温度を上げないことが大切です。
実際、屋外で遊ぶときは帽子があると安心ですが、熱がこもらない風通しのいい素材や白系の色の帽子を選ぶと安心です。
マスクも同じで、黒っぽいダークなカラーのマスクは口元に熱がこもりやすいので、注意しましょう。
熱中症になってしまったら?
Q10. もしも熱中症になってしまった場合、どうしたらよいですか?
十河先生
意識がしっかりしていたら、まずは涼しいところに避難します。その後、服を緩めてうちわで仰いであげたり、冷たいもので体を冷やしたりして、水分と塩分を摂りましょう。
冷やすのは、首、脇の下、鼠径部など、太い血管が走っているところ。外周中であれば自動販売機で飲み物をたくさん買うなどして、直接冷やします。
大人と違って体の小さい子供は冷やせばすぐに冷えますよ。
水分と塩分は、スポーツドリンクだと塩分が足りない場合があるので、可能であれば経口補水液を飲ませてください。
経口補水液は飲めるペースでゆっくり飲ませ、吐いた場合はキャップ1杯程度ずつ飲ませます。経口補水液がなければ、塩分の入っているドリンクを飲ませましょう。
意識がない場合は、すぐに救急車を呼びましょう。
Q11. 熱中症の際に塩分はどのくらいあげていいですか?
十河先生
熱中症になったときには基本的に塩分が足りていない状態です。ただし、いざたくさん塩分を摂ろうと思ってもそんなに摂れないので、心配しすぎなくて大丈夫です。
ただし、腎臓や心臓に病気があるときは塩分制限されている場合もあるので、担当医に塩分の摂り方を相談しましょう。
健康な子供であれば、多少摂りすぎてもおしっこで排泄されるので、そこまで心配しなくてもいいですよ。熱中症に関して言うと、塩分の摂りすぎより足りないほうが危ないです。
Q12. 寝ている時も熱中症になりますか?
十河先生
可能性はゼロではないですが、扇風機を回す、換気のいい部屋で寝ている、エアコンをつけている部屋で寝ているのであればそんなに神経質にならなくて大丈夫です。
Q13. 汗をかきにくい子供で、熱中症になりやすいのではないかと心配です。
十河先生
本当に汗をかきにくい体質や病気の子は体温のコントロールがうまくできないので、熱中症になりやすい傾向にあります。
診断されてはないけど、他の子と比べると汗が少ないかな?という程度であればそれほど気にする必要はありません。
もしも気になるようであればあまり暑い時間帯に長時間遊ばない、あまり厚着しない、黒系より白系で風通しのよい服装で出かけるなどの対策を心がけましょう。
Q14. 一度熱中症になると、また熱中症になりやすいですか?
十河先生
熱中症になりやすい体質の子はいます。繰り替えす可能性はゼロではありませんが、熱中症は予防できるので、基本的な熱中症の予防対策をしていれば問題ありません。
正しい熱中症予防法を知って子供を守ろう!
熱中症は対策をしていれば予防できます。赤ちゃんや子どもは予防方法を知らないので、親やまわりの大人たちが正しい知識をもって対策・対処してあげることが大切ですね。
十河 剛(済生会横浜市東部病院)
小児肝臓消化器科 部長 医学博士。日本肝臓学会認定肝臓専門医・指導医。NPO法人日本躰道協会 理事。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1995年 防衛医科大学校医学科卒。躰道七段教士。合気道二段剣道二段。日本小児科学会認定小児科専門医。日本肝臓学会認定肝臓専門医。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。自宅敷地内に道場建設し、Sogo Budo Academy International設立。現在、子供達や学生達への指導を続けている。