スマホで精子チェック!自宅で精子の状態を確認する新しい妊活法

監修医師 泌尿器科 小堀 善友
小堀 善友 プライベートケアクリニック東京 東京院院長。2001年、金沢大学医学部卒業。金沢大学泌尿器科、米・イリノイ大学シカゴ校泌尿器科、獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授を経て、2021年より現職。日... 監修記事一覧へ

妊娠を望み、避妊をしないで性交をしているのに、1年以上妊娠しないときには、「不妊」または「不妊症」と診断され、妊娠に向けた治療が必要です(※1)。不妊症というと、赤ちゃんを出産する女性がなるものだと思われがちですが、そのパートナーである男性が原因となる不妊症、つまり「男性不妊症」があることをご存知ですか?

特に男性は病院で調べることに抵抗がある人も多く、不妊の原因が男性側にあると気づかないことも。今回は、病院に行かなくても、自宅で精子の状態を検査する新しい妊活の方法を、日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本性機能学会専門医の小堀善友先生にお話いただきました。

男性不妊の割合は?

不妊症の原因の男女比

WHO(世界保健機構)が発表した、不妊症の原因が男女どちらにあるかを調査したところ、男性のみに原因がある場合が24%、男女両方に原因があるのが24%という結果になりました。つまり、合計48%は男性側に原因があるとされています。

それでは、日本国内ではどのくらいの数の男性不妊の人がいるのでしょうか?

現在、赤ちゃんを授かる可能性が他の世代より高い、青年世代(25〜40歳)の男性人口はおおよそ1,000万人います(※2)。そして、厚生労働省の調査によると、40歳男性の約70%が結婚しているとされています(※3)。

また、不妊症の割合は近年上昇傾向であり、その割合は6組に1組であることがわかっています(※4)。さらに、男性側が原因の不妊症を約半分として計算すると、かなり大雑把な計算ですが、以下のようになります。

10,000,000人 × 70% × 1/6 × 1/2  =  583,333人

ここから考えると、日本国内でも50万人以上が男性不妊症の可能性があります。

精子が不妊の原因?検査で見つけられるの?

男性不妊症患者疾患別内訳

男性不妊症ではないかと、不妊症外来を受診される人をみても、その原因は様々です。

2014年度に日本国内の男性不妊症外来を受診した7,253人を調査したところ、その中のほとんどは造精機能障害(5,991人)がある人でした(※5)。

しかし、なかには閉塞性精路障害(286人)や、性機能障害(980人)の人もいます。原因は一つだけではなく、複数のものが重なっていることもあります。

造精機能障害とは?

精液の中の精子が少なかったり、精子の運動が悪いことが原因で妊娠しづらい状態のことを造精機能障害といいます。一般的に、精液量が1.5ml以上、精子濃度が1,500万/ml、精子運動率が40%以上ないと自然妊娠は難しいとされています。

まれに、精液中に全く精子がいない「無精子症」という場合もあります。

無精子症の原因として、精子が精巣で作られづらい状況になっている「非閉塞性無精子症」と、精子ができているのに精子が出てくることができない「閉塞性無精子症」があります。

造精機能障害の場合、明確な原因がわかれば、その原因を治療することにより、精子の数や運動を改善させることができ、妊娠につなげられる可能性があります。

たとえ無精子症であったとしても、精巣の中の精子を手術で採取することができれば、自分の子供を持つことができる可能性もあるのです。

しかし、造精機能障害の半数は、原因不明です。そのため、治療が難しく、結局は体外受精などの生殖補助医療が必要となっているのが事実です。

閉塞性精路障害とは?

精巣の中で精子ができているのに、出てくることができない状態のことを閉塞性精路障害といいます。生まれつき精子が精巣から出てくるための精管がない人もいますし、クラミジアなどの性感染症が原因で精管が詰まってしまう人もいます。

治療として、顕微鏡を用いて精管をつなぎ直す手術が行われる場合もありますが、最終的には精巣の精子を採取する手術を行い、顕微授精が必要となる可能性が高くあります。

性機能障害とは?

勃起や射精をすることが難しく、セックスを完遂することができないことが不妊症の原因となっていることを性機能障害といいます。

勃起障害(ED)はバイアグラ、レビトラ、シアリスといったPDE5阻害薬という薬が非常に効果的であるため、多くの人は治療が可能です。

しかし、射精障害の治療は、難しいことが多くあります。

不妊治療の現場で最も問題となる射精障害は、マスターベーションでは射精することができるにもかかわらず、セックスをする際に腟の中で射精することができない「腟内射精障害」です。

多くは幼少期からのマスターベーション方法が間違っている場合や、心理的なものが原因となりますが、効果的な薬剤はないため、夫婦でのカウンセリングが必要となります。

治療にも長時間が必要となるため、結局は赤ちゃんを作ることを優先して、人工受精などを選択することも多くあります。

まず、精液検査を受けてみよう!

精子

「ちゃんと勃起して射精ができているのだから、精子がないわけがない!」と考えている男性は、実際にたくさんいます。このことを、とある婦人科のドクターは「男の沽券問題」と言っていました。

多忙、プライド、羞恥心が邪魔をすることにより、精液検査を希望しない男性が多いのです。

確かに、不妊症を扱うクリニックの名前は「●●●レディースクリニック」などという場合も多く、男性が受診しづらい状況であることは否めません。

しかし、先述のとおり、不妊症の原因の半分は男性です。男性側が検査を受けないと、不妊症の診断が遅れてしまうため、治療が開始できません。年齢が上昇すればするほど不妊治療の成功率は低下するので、これは非常に重要な問題なのです。

「性」にまつわる病気、例えば不妊症や性機能障害(勃起や射精の問題)の悩みは、「不妊治療を受けたい」という希望よりも、「恥ずかしい」という感情が上回ることにより、必要な時期に適切な治療を受けられず、さらに妊娠を困難にしてしまいます。

男性側の不妊症を見つけるために最も重要な検査は、精液検査です。これは、女性側の検査よりも簡単なので、検査を受けることの重要性を考え、まずは精液検査を受けることをおすすめします。

スマホで精子チェック!男性不妊の検査方法は?

小堀先生図3
▲図1 Seem

小堀先生図4
▲図2 メンズルーペ

それでも、「病院に行くのはちょっと嫌だな」と感じることがあるのなら、自宅で自分の精子の状態を調べることができたら、どうでしょうか?

そのような人たちを対象として、Seem(図1)やメンズルーペ(図2)といった、スマートフォンで精液の状態をセルフチェックすることができるキットも販売されています。これなら、病院に行かず、自宅で検査できるので簡単ですよね。

泌尿器科の医師で男性不妊を専門にしている私も、このメンズルーペの開発にも携わり、この研究はアメリカでも高い評価を受けました。

また、不妊症の知識をチェックすることができるeラーニングシステム『こうのとりラーニング』も開発されているので、一度トライすることをおすすめします。

「オトコから取り組む不妊治療」へ

男性 病院 医師 相談 泌尿器科

男性の不妊症の検査は、女性よりも簡単で、今や自宅でも行うことができます。

私は、不妊治療が今後「男性から」行われるように意識が変わっていくことを期待しています。

男性から取り組む不妊治療という文化が日本から広がる日も近いと信じています。

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