妊娠高血圧症候群とは?原因と症状、治療・予防法は?入院は必要?

監修医師 産婦人科医 渡邉 京子
渡邉 京子 産婦人科専門医。長門クリニック勤務。女性特有の月経や更年期にまつわる悩みの助けとなること、また、妊娠出産期を安心安全に過ごすお手伝いすること、を念頭に置いて日々診療しています。 監修記事一覧へ

妊娠するとつわりが起きたり、便秘や下痢になりやすくなったり、お腹が大きくなって腰痛になったりと、体調が大きく変化します。「妊娠高血圧症候群」も妊娠中に見られるもので、母体や胎児への悪影響もあるため、慎重に対処する必要があります。今回は妊娠高血圧症候群とはどういうものか、その原因や症状、治療法などについてご説明します。

妊娠高血圧症候群とは?妊娠中毒症と同じ?

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妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に何らかの原因で高血圧になるか、高血圧に加えて蛋白尿が出る病気の総称です。ちなみに、一昔前は「妊娠中毒症」と呼ばれていました。

日本産科婦人科学会の定義では、「妊娠20週以降、分娩後12週まで」に起こるものを妊娠高血圧症候群とし、妊娠20~32週未満で発症したものを「早発型」、妊娠32週以降に発症したものを「遅発型」と分類します(※1)。

妊娠高血圧症候群は、全妊婦の約3〜7%に発症し、重症化すると母子ともに命の危険にさらされることもあります(※2)。

妊娠高血圧症候群の原因は?なりやすい人はいる?

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妊娠高血圧症候群を発症する原因は、まだはっきりとわかっていません。

しかし、発症しやすくなる条件はある程度わかっているので、以下に該当する人は注意が必要です(※2,3)。

  • 年齢:15歳以下、40歳以上
  • 体重:肥満
  • 合併症:高血圧、甲状腺機能障害、糖尿病など
  • 遺伝:母親が妊娠高血圧症候群を発症したことがある
  • 出産経験:はじめての妊娠
  • その他:多胎妊娠、胞状奇胎

妊娠高血圧症候群の症状は?合併症もあるの?

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妊娠高血圧症候群は、「症候群」という名前のとおり、様々な病気の総称です。

代表的な疾患のうち、「妊娠高血圧」であれば高血圧のみが症状として現れ、高血圧による頭痛やめまいが起こることもあります。

また、特徴的な自覚症状としては「むくみ」があります。ただし、むくみは妊婦さんの約30%に見られるもので、妊娠高血圧症候群による症状かどうかを見極めることは難しく、また母体と胎児に悪影響を与えないと考えられています(※3)。

なお、妊娠中の急激な体重増加も妊娠高血圧症候群による影響である可能性があります(※2)。

妊娠高血圧よりも危険度が高い「妊娠高血圧腎症」の場合、高血圧だけでなく蛋白尿が出るようになります。症状が進行すると合併症を起こすこともあり、ママとお腹の赤ちゃんへの負担が大きくなります。痙攣を起こして命にかかわることもある「子癇発作」のほか、脳や肺、肝臓や腎臓など、全身の臓器に機能障害を引き起こす場合もあります(※2)。

妊婦健診で血圧や蛋白尿を調べることは、妊娠高血圧症候群を早期発見するという意味でも大切なので、妊婦健診は定期的に受けるようにしましょう。

妊娠高血圧症候群の胎児への影響は?

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妊娠高血圧症候群のうち、妊娠高血圧腎症では、胎盤が分娩前に子宮壁から剝がれて大量出血を起こす「常位胎盤早期剥離」が起こりやすいといわれています(※2)。

また、胎盤がうまく機能しないことにより、赤ちゃんに送る酸素や栄養が不足して「胎児発育不全」や「胎児機能不全」などを引き起こすことがあります。また、最悪の場合は胎児死亡に至る可能性もあります(※2)。

なお、妊娠32週未満で発症する「早発型」の妊娠高血圧症候群の方が、胎児発育不全が見られやすいことがわかっています(※2)。

妊娠高血圧症候群の治療方針は何で決めるの?

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妊娠高血圧症候群と診断された場合、緊急帝王切開や分娩誘発によってすぐに分娩を行うか、妊娠を継続するかという判断がされますが、治療方針を決めるポイントは次の3つがあります(※2)。

重症度

高血圧や蛋白尿の程度によって、重症・軽症に分けられます。原則として、重症であれば入院管理となりますが、軽症の場合は入院せずに経過観察となることもあります。

妊娠週数

一般的に、重症の妊娠高血圧症候群で、胎児が十分に成熟していれば分娩が選択されますが、妊娠34週未満の場合、まだお腹の中にいた方が安全と判断され、妊娠の継続が検討されます。

母体と胎児の状態

母体の状態が悪化していたり、合併症が起こっていたり、胎児機能不全が見られたりと母子ともに危険な場合、妊娠を中断します。

妊娠高血圧症候群の治療法は?薬や食事療法が必要?

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妊娠高血圧症候群を根本的に治療するには、妊娠を中断してすぐに分娩を行います。しかし、一般的に妊娠34週未満で、お腹の赤ちゃんが未熟なときは、できる限り妊娠を継続して分娩タイミングを判断する必要があります。

緊急性を要しない軽症の段階であれば、安静にしてストレスを避ける生活を送りつつ、食事療法を行います。高血圧の原因になりやすい塩分の摂取量は1日に7~8gとし、食事内容はBMI値に合ったカロリーの食事量を3回に分けて摂ります(※2)。

また、食事療法とあわせて、血圧を抑える降圧薬や、子癇発作を予防する硫酸マグネシウムなどを投与する場合があります(※2)。

症状が落ち着けば、通常どおりに分娩を行いますが、軽症だったとしても母体や胎児が危険にさらされると判断された場合は、正期産の時期より前であっても帝王切開か分娩誘発が行われます(※4)。

妊娠高血圧症候群の治療で入院が必要?

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妊娠高血圧症候群が重症と判断されたら、入院管理が必要です。食事療法と薬物療法を行いながら、慎重に状態を管理していきます。

日本妊娠高血圧学会によると、重症の場合、妊娠32~34週を過ぎたら分娩をするべきとされていますが、妊娠32週未満であっても、母体の安全を優先して分娩を行うケースもあります(※2,4)。

ただし、妊娠何週でどのような対応をするのかは、個々の症状にあわせて慎重な検討が必要です。万が一、症状が進行した場合に備えて、事前に医師と治療方針について相談し、夫婦で話し合っておきましょう。

妊娠高血圧症候群の予防法は?

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妊娠高血圧症候群は、原因がはっきりしていないので確実に予防する方法はありません(※4)。

しかし、前述したように肥満や高血圧はリスク要因と考えられているため、普段から健康的な生活を心がけることが妊娠高血圧症候群の予防には大切です。

栄養バランスの取れた食事を心がけ、日々のストレスをうまく解消し、適度な運動と十分な睡眠をとるようにしてください。そのうえで、妊娠中に頭痛や急激な体重増加などが見られた場合は、早めに病院を受診しましょう。

妊娠高血圧症候群は早期発見が大切

妊娠前は健康だった人も、妊娠すると急に体調が変化することがあります。妊娠高血圧症候群もその一つで、原因が明らかになっていないので、誰でもなる可能性があると考えておきましょう。

妊娠高血圧症候群は重症化すると怖い病気なので、定期的に妊婦健診を受けることで早期発見につなげましょう。

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